Episode:11
「ですけど……」
「だから、いいっての。
あ、そうそう、いい加減その敬語もヤメな。タメ口でいいから」
もともと丁寧なんだろうけど、どうもこそばゆくて俺は嫌いだ。
「あ、はい、わかりました……」
「だから、それ」
「え、あ、ごめんなさい、わかった」
そうこう言ってるうちに、階段が終わる。
鐘楼の上には交代で見張りしてるらしい青年団の人が何人かと、防災担当のおっさんがいた。
「ども」
下から連絡が行ってたんだろう、俺らを見ても誰も驚かない。
「お、やっと上がってきたか。
にしても、お前がわざわざ上がってくるなんて珍しいな。やっぱそのお嬢ちゃんの案内か?」
「そんなとこです」
叔父さんがこの町じゃ有名人なもんだから、たまに来るだけの俺まで、町のエライさんに顔知られまくってる。
絶対に悪いことはできないってやつだ。
「ほらお嬢ちゃん、そんなとこ突っ立ってないで、こっち来て見てごらん」
――おっさん。
美少女ぶりに当てられたのか、猫なで声でルーフェイアの面倒みてやがるし。
「あれ、ちょっと届かないか?
そしたらほらこれで……よし、この上へ乗ってごらん」
挙句にその辺に置いてあった木箱を動かして、踏み台にしてやってるし。
「見えるかい?」
「はい、大丈夫です」
そうやってしばらく、町の外に広がる平原を眺めた後だった。
「あ、煙……?」
「煙?」
妙なことをこいつが言い出す。
「どっかの改造屋の煙じゃねぇのか?」
「んと、そうじゃなくて、火事みたいな……」
「なにっ!」
緊張が走る。
「お嬢ちゃん、どこだっ!」
「いえ、あの、そこの町中……」
おっさんたちの剣幕に押されながらも、ルーフェイアが指差した。
慌てて見張りの一人が望遠鏡を向ける。
「分かるか?」
「はい、どうにか――南区の十番通りっぽいですね。キナ通りと交差する辺りです」
「え?」
耳を疑う。
確か叔父さんとこのいちばん上の姉貴とその娘のネミ、いま住んでるのそこら辺だ。春に来たとき家建て直すってことで、仮住まいへの引越し手伝わされた。
「やべぇ、俺ちと行ってきます。姉貴とか家が今そこなんで!」
「ホントか? だが気をつけるんだぞ」
慌てて身を翻して階段を駆け下りようとした時。
ルーフェイアと目が合った。
不安げでうろたえて……。
――そうか。
ここでひとりにされるのが嫌なんだろう。
「来るか?」
言ってやると、こいつがうなずいた。
「んじゃ行くぞ!」