1 はじめまして
カタカタと小刻みに揺れる車内が、鋪装されていない道の上を走っているのだと告げる。やっぱり納得出来ない。釈然としない。いくらなんでも、話と違いすぎる。
「あのー…本当にこの道なんですか」
「何度も言わせんな、どうしてそんなに気にする」
「いや、聞いていた話とあまりに違うので…」
運転手はニヤリと笑ってこちらを見た。
「そりゃホントのコトは言わないだろ、」
ろ、の辺りで大きく車が傾いた。何かに乗り上げたのかもしれない。運転手は素早くハンドルをきり、また車内は安定した小刻みな揺れに戻った。僕はその急な動きの変化についていけなくて、シートに叩きつけられた衝撃で小さく呻いてしまった。今の声を聞かれていたら恥ずかしい。ちらりと隣を伺うと、運転手は前方を見つめたまま苦笑していた。
「危なかった…やっぱり気ぃ抜いちゃいけないな、この道は」
「すいません」
「謝るなよ、何も悪いことしてないんだから」
「話し掛けたのは僕です、」
「ははっ、少し話したくらいで同乗者の安全を保障出来ないようならドライバー失格だ」
俺は一流だからな、といって運転手は笑った。今のは冗談だったんだろうか、口振りとしてはそう聞こえたけれど。僕も合わせるようにして笑った後は、またしばらくカタカタと揺れる音だけが続いた。
「もうじきだ」
運転手は、視線は前に据えつつも、言葉自体は僕に向けて発したようだった。安心しろ、と言いたいのかもしれない。でも僕には、運転手が何を基準に『もうじき』と言ったのか分からなかった。きっと何か目印があったんだろうけど、残念ながら僕はそれ解せなかった。もしくは、走行距離や、時間なんかから判断したとか。そういった類いの情報なら僕は持ち合わせていないし。
自らの置かれた状況を把握させないように仕組まれていることぐらい、いくら僕でもさすがに勘付く。そもそも解雇ではなく異動の通達を受けた時点で気付くべきだったんだ。ましてや転勤先が『オアシス』だなんて、こんな良い話、ある訳がないと。
「着いたぞ」
ブレーキがかけられたこの車は、もう僕らが降りるのを待っているだけのようだった。運転手に続くように扉を開け、何処かも分からぬ地に僕は足を下ろした。