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界渡りの物語  作者: 九重
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世界

その後、翠子は穏やかに時を過ごした。


番候補4頭に囲まれた至れり尽くせりの日々を送る。

竜の常識や歴史、他の種族に関する知識も覚えた。徐々に他の竜に会う機会も増え、竜の世界のあちこちや、その外へも 出掛けて行く。

常に過保護な番候補の誰か……主にロウドがぴったりと付き従うその旅は、それでも楽しい。

人間の世界にだけは行かなかったが、他はこの世界の殆どの空を飛んだのではないかと思う。


翠子にとって見慣れた生き物もいれば、全く想像もつかないような生き物もいるこの世界。

目に映る全てが物珍しく、それでも何故かここが自分の世界だと翠子は思った。


それは、界渡りとしての本能なのかもしれない。


(ここは、私の世界だわ。)


明確にそう認識できる。


生きる為に広い空間を必要とする界渡り。

厳密に言えば、広ささえ有れば界渡りは生きるに十分な力を得る事が出来るはずだが、それが全てではないのだろう。


(何もない空間だったら、つまんなくって死んじゃいそう。)


渡ってたどり着いた世界で生きて、その世界に染まり、界渡りは本当に根づくのだと思う。


(私は、ここで生きていく。)


そう感じた。




ある日、空を飛びながら、ふと思いついた翠子は上空を目指す。


『アキコ、あまり上に行くのは危険だ。』


共に飛んでいたロウドが、いつまで昇っても止まらない翠子に忠告してくる。

上空に行けば行くほど、そこは生き物が存在できない場所になるはずだ。翠子は、以前中学の授業でそう習っていた。


でも、何故か、界渡りの自分は大丈夫だろうという確信があった。

しかし、翠子はともかく、ロウドには空気のない場所は危険だ。


「直ぐに戻るから下で待っていて。」


そうロウドに告げて、翠子は更に上昇をはじめた。


ロウドが焦って何かを叫ぶが、大丈夫だという合図に、一度翼を大きく振って離れて行く。



上空4百キロ程の場所まで一気に上昇した。


下を見る。


青い世界が目に飛び込んで来た。


(凄い。テレビで見た人工衛星からの地球の映像にそっくり――――)


青い海と緑の大陸。白い雲に光が織り成す明と暗。


――――それは、息を呑むほど感動的な光景だった。

界渡りが翠子1人だけという現状を考えれば、この世界は地球よりも少し小さいのだろう。

それでも翠子の世界は美しく、胸を震わせた。



(私の世界……)



この星で数多の命が生まれ育っていく。

竜がいて、人間がいて、他の多くの生き物がいる。


(そして私も、一緒に生きていくんだわ。)


それが、涙が出るほど嬉しかった。

無理矢理に、生まれ育った地球から落ちて、界を渡らせられて――――

そんな運命を恨んだけれど、今は良かったと思う。


翠子は、やはり界渡りなのだった。




ふと、昔見たアニメ映画を思い出す。

今と同じような地球を背景に歌われていた歌が頭に流れる。



(……この星のどこかに、ヤトがいる。)



ヤトだけでなく、ロウドも他の者達もみんなが生きている。


翠子は自分の星を抱きしめるかのように翼を広げた。


ゆっくりと下降する。



(帰ろう。)



そう思った。


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