表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
界渡りの物語  作者: 九重
90/111

良い話と悪い話 2

『さて、今のが悪い知らせ。今度は良い知らせだ。……俺達にとっては残念なんだけれどね。多分人間さんは3年も経たない内に戻って来ることが出来るよ。』


あっけらかんと、ギョクは言う。



『だって人間さんには、陛下の加護がついているんだから。』



それは、ごくごく当たり前の事のようだった。


「加護?」


ヤトは驚く。

別れる際、特に翠子はヤトに何かをした様子はなかった。加護なんて大げさなものをもらった覚えはない。



『まったく、これだから人間さんは自分がどれ程の幸運にあったのかわかっちゃいないよね。あんたは畏れ多くも竜王のお気に入りなんだよ。……どんな存在もあんたに味方するに決まっているだろう。』



わからぬヤトに、ギョクは呆れる。

その赤い瞳が、急に強く輝いた。

翼を広げ、ゆっくりとたたむ。

ロウドに比べれば小さいはずの赤い竜が、何故か急に大きく見える。



『――――風は、いつもお前に有利な方から吹くだろう。

    雨も、お前に都合良く降る。

    日の光も月光も、お前の味方だ。

    森も川も海も、お前の前に自ら道を開き、お前の敵を阻むだろう。

    全ての幸運がお前のもので、不運はお前の敵に降りかかる。

    お前の意思も陛下の心も関係ない。

    それがこの世界の全ての意向だ――――』



まるで人が――――いや、竜が違ったような厳かな声でギョクが宣する。


ヤトは思わず鳥肌立った。

呆気にとられて、ただただ目の前の竜を見つめる。



『――――幸運な人間。心して行動し、速やかに戻れ。……もしも、お前が陛下の御心を失えば、お前に与えられた幸運は悉くお前に牙を剥くだろう。』



背筋の凍るような緊張が辺りに満ちた。

世界中の全てのものが、その言葉に聞き耳を立て、この場を見ているような気がした。






『…………なんてね。』


張り詰めた緊張をパッと霧散させ、ギョクが笑う。


『俺はどうでも良いよ。人間さんがどうなっても興味はないし。』


ギョクは、たたんだ翼を再び広げた。

そのまま大きく羽ばたく。


強風が吹き、ヤトは飛ばされないように体に力を入れ足を踏ん張った。


赤い竜が空に浮く。




『ああ、でも――――』


そう言いながら、飛び去ると思われた赤い竜は、空中に止まった。



『――――もしも陛下を泣かせたら、俺が間違いなく殺してあげるから。首を洗って待っていると良いよ…………ヤト。』



最後の最後でヤトの名を呼んだギョクは、今度こそ羽ばたき上昇した。

あっという間に湖の上空高く飛び上がると、そのままヤトには目もくれず、飛び去っていく。





赤い竜が見えなくなって………ヤトはようやくゆっくりと息を吐きだした。


情けないことに手足がブルブルと震える。片膝をついた。


「あれが、本気の竜のプレッシャー……。」


本当に本気で潰されるかと、ヤトは思った。

自分が今まで随分竜に手加減されていたのだと、今更ながらにわかる。


翠子がヤトを気に入っている。たったそれだけの理由で自分の命は長らえたのだと実感した。


震える体を叱咤し、立ち上がる。

果たしてギョクの言うような“加護”が本当に自分にあるかどうかはわからない。



「力の限りやるだけだ。」



どの道そうする以外の道を自分が選ばないだろうと、ヤトにはわかる。。


もう一度空を仰いだ。

竜の国の方向を見つめる。


唇を引き結び、ヤトは走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ