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界渡りの物語  作者: 九重
85/111

選定 1

時は、流れるように過ぎる。


竜の国に来て、ロウド達から訓練を受け、疲れをヤトに癒してもらう。

たいへんではあるが、それなりに充実した日々が過ぎ、今日、翠子とヤトは竜の長に呼ばれていた。


『お久し振りです。我らが王。日々を恙無くお暮らしのご様子。ロウド達より報告を受けております。』


長に頭を下げられて、翠子はいたたまれない。

相変わらず貫禄たっぷりの威厳のある老竜だった。


『ロウド達からの毎日の報告も、日を追うごとに熱がこもる様が見て取れます。年老いた我が身も高揚するかのようで、若いとはかくも華やいだものだったのかと、羨ましく思いました。』


翠子は、ますますいたたまれなかった。


(お年寄りが高揚する報告って……。ロウド達は、いったいどんな報告をしたのよ!?)


中身がものすごく気になる。


「陛下の御力も、日増しに強くなっておられると感じられます。竜の世界の隅々にまで陛下の波動が満ちていますこと、お感じでしょう。」


長の言葉に翠子は渋々頷いた。


わからぬはずがない。


それは界渡りの力だった。

生きる為に広い空間を必要とする界渡り。空間の広さそのものが、界渡りを生かすエネルギーだ。

最初は無意識にこの世界の空間から力を取り込んでいたらしい翠子だが、この世界に馴染み、時を重ねるにつれ、空間を自分のモノとして認識し、感じることができるようになっていた。

手足、いや、竜となった今では翼の感覚にそれは似ている。


目に見えない翠子の翼は、竜の世界にとどまらず外へ外へと向かい、全てを感じとり己のモノとしている。

そこに歯止めはなく、界渡りにはいったいどれだけの広さが必要なのかと思えば、怖くなるような翠子だった。




『時は満ちたと判断いたしました。』


長は、長い首を翠子の前で下げる。


『我らが王よ。どうか貴女の番をお選びください。』


伏したまま、長は話す。巌のような大きな体は微動だにしなかった。




長の体から発せられる威圧をひしひしと感じながら、しかし翠子は答えることが出来なかった。


(ついにこの日が来てしまったの?)


そう思う。


長の後ろには、ロウドをはじめとした4頭の番候補の竜達がジッと翠子を見ていた。


「えっと、あの……、それはどうしても今じゃなければいけないの?」


翠子はおそるおそる声を出す。


『待てば、お返事は変わるのでしょうか?』


顔を上げもせずに長はそう言った。


痛いところをつかれて翠子は途方に暮れる。

変わるも変わらないも、そもそもの答えがまだ決まっていないからだ。

しかも、決まる予定も立たない。


どうしようと戸惑う翠子に、ヤトが救いの手を差し伸べる。


「そう急がれなくともよろしいのではないですか?これ程に素晴らしい番候補様ばかりでは、彼女も心を決めるのは難しいのだと思います。竜の方々には、我ら人から見れば永遠とも言うべき時間がおありになるでしょう?」


長は、ようやく顔を上げた。

ジッとヤトをみつめてくる。


『確かに我らに急ぐべき理由は何もない。陛下が必要なのだと仰れば、我らは百年だとて待てるだろう。』


「百年……」


さすがにヤトも言葉が続かない。

竜と自分の、時間に対する感覚のあまりに大きな違いに呆気にとられる。


そんなヤトを、長は静かに見つめた。




『急ぐべきは、お前だ。人の子よ。』



鋭い牙の並ぶ長の大きな口が開かれる。



『人間世界に戦がはじまると、風が伝えてきた。』



翠子は息を呑んだ。


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