やきもち 1
「ファラって――――というより竜全体がそうだと思うのだけれど、分かりやすいわよね?」
翠子の言葉にヤトは首を上に向ける。
今は夜。ヤトは翠子の足元にくっついて眠る体勢になっている。
ロウドに指摘されてから、翠子のお腹の下のフカフカな毛の中では眠らなくなったヤトだが、一緒にくっついて眠るのだけは、変わっていない。
何より、別々に眠ることは、翠子が嫌だった。
「…………随分、皆と仲良くなったのだな。」
ヤトが聞き取れないような低い声で、小さく呟く。
もちろん翠子の竜の耳は、どんな呟きでも聞こうと思えば聞くことができるので無問題だ。
「仲良くなった気はあまりしないけれど………でも、確かに近くで見ても平気にはなったみたい。」
爬虫類は苦手な翠子にしてみれば、それは立派な進歩だ。
自慢そうに胸を張る翠子を、ヤトは複雑そうに見上げて笑う。
「相手の感情が分かりやすいと思ったり、近くに居ても嫌ではないと感じたりすることは、互いに相手に心を許しているということだ。――――アキは、間違いなく番候補達と仲良くなっている。」
ヤトの言葉に翠子は首を傾げる。
そんな実感はないのだが、そう言われてしまえば、確かに否定もしづらかった。
「そうなのかしら?」
ヤトはゆっくり頷く。
そのまま顔をうつむけると…………、急に両手で頭を抱え、グシャグシャと髪をかき乱しはじめた。
「クソッ、情けない!」
「なっ!――――ヤ、ヤト?」
翠子はビックリして目を見開く。
「お前が番候補と仲良くなることは、お前にとって最善で、誰より喜んでやらなければならないのに、俺は――――」
ヤトは、拳を握りしめる。
「……ヤト?」
「悔しいと、――――嫌だと思ってしまう。」
喉の奥から絞り出すような声で、ヤトはそう言った。
翠子は、目をパチパチする。
(え?――――ひょっとしてそれって、ヤトが私にやきもちをやいてくれているってこと?)
翠子の胸は急にドキドキと高鳴りはじめる。
顔が熱くなってきた。
「お前が、番候補たちと一緒に頑張っている姿を、俺は嬉しく思う。でも、そう思いながら、その反面、俺の中にはモヤモヤとした感情が生まれてしまうんだ。――――まったく、自分の狭量さ加減が嫌になる。」
ヤトは、ガックリと項垂れた。
一方それを聞いた翠子は――――
「嬉しい!」
尻尾をパタパタと動かして、叫んだ。
「はっ?……嬉しい?」
「うん、とっても嬉しい。だってそれって、ヤトがやきもちを妬いてくれたってことよね?」
「……やきもち。」
ヤトはポカンとした。




