訓練 1
「ゆっくり感覚を広げ、耳を澄ますように心を澄ませ。」
ロウドの言葉に従い翠子は意識を凝らす。
「感じられるか?全てに宿る力を。」
それは確かに翠子の内と外に在った。光とも熱とも違うただそこに在るモノ。
「その力が見えるか?」
翠子は首を横に振る。感じられても、それを見ることはできなかった。
「できるだけ見えるモノとして知覚した方が良い。その方が、コントロールが簡単で失敗しにくい。」
そうは言われても実際見えないものが、そう簡単に見えるようになるはずもない。
ウンウンと唸りながら奮闘していた翠子だが、ついに集中を切らし、ぐったりと長い首を地面に落としてしまった。
「ムズい〜」
思わず音を上げる。
番候補たちと顔を合わせて既に10日。
今、翠子はロウドと竜の力を操る訓練中なのであった。
「焦る必要はない。いくら強い力を持っているとはいえ、それを自在に操ることは一朝一夕には無理だ。我らは生まれ落ちたその瞬間から力を操る訓練を始めるが、アキコにはその素地がないのだから。」
俺様でも翠子には優しいロウドは、そう言って翠子を慰めてくれる。
地面に落ちて泥の付いた翠子の顔をロウドの力が操る優しい風が綺麗にしてくれた。
そっと近づくロウドの頭が翠子の首に触れて上げるように促される。
「ありがとう、ロウド。」
「続きは後日また頑張ろう。」
長い首が一瞬絡まり、名残惜しそうに離れて行く。
ロウドとの訓練はこんな風に進められていた。
そして、その次の日。
「ほら、こっちだよ。可愛い子ちゃん♪」
ギョクが器用に空中に停止し、翠子に呼びかける。
「もうッちょこまかと!」
翠子は思わず叫んだ。
「待って!」
「待ったら訓練にならないだろう?」
ギョクは楽しそうに笑うと、クルリとその場で宙返りをする。
身軽なその様子に翠子は唸った。
傍から見ればまるで鬼ごっこをしているかのような翠子とギョク。実はこれも翠子の訓練だった。
翠子と4頭の番候補それぞれからの訓練は、彼らの得意分野となっている。
ロウドからは竜の力のコントロール。
ギョクからは飛行を含めた体術。
カイザは深い知識を持っていて、その知識を教えてくれる。
そしてファラからは全般的な戦術を教えてもらっていた。
流石に番候補として残るような彼らは、得意分野では他に追随を許さぬ実力を持ち、翠子は感心するばかりだった。




