番候補 6
そんな翠子の夢を、黄金の竜が破った。
「お願いされずとも見守りますとも。もっとも私も陛下を出て行かせはしませんが。……陛下の美しさは私の隣にこそ相応しい。私は、”アキコ”――――貴女をもっと知りたいと思います。そして、貴女が心を向けるヤトという人間も。」
カイザの瞳は、真摯にヤトに向けられる。
その様子に翠子も、そしてヤトも驚いた。
「馴れ合うおつもりはないのでしょう?」
そうなのだ。カイザは、最初にヤトに侮蔑の言葉を浴びせた竜だ。
ヤトの指摘をカイザは平然と肯定する。
「当然だ。人間など私にはどうあっても虫けらにしか見えない。自らそんな虫けらを受け入れるつもりはない。それでもお前は陛下のお心を得る存在だ。お前がそれに値するものかどうかを私は見るだけだ。」
自ら歩み寄るつもりは一切なく、ただヤトを見るだけなのだとカイザは言う。
(それでヤトの何を理解するつもりなの?)
翠子は呆れた。
それでもカイザはヤトをヤトという個人として受け入れただけ、先ほどよりましなのかもしれない。
「流石、何様ナルシストは言う事が違うな。」
ファラが皮肉たっぷりに笑った。
「俺は弱いものになど興味はない。」
白を弱さとして迫害されてきた白い竜は侮蔑を隠さずヤトを見る。
「ヤトは弱くないわ。」
翠子の抗議も鼻で笑った。
「人間など我らの一息で命を落とす存在だ。」
傲慢な竜の言葉に、翠子が反論する前に、違う声が割って入る。
「その通りだ。」
ロウドだった。
「その通りであるのに、此処にいる勇気がお前にあるか?」
ファラは一瞬押し黙る。
自分よりはるかに強い相手に、敵視されながらその前に立つ勇気。
それがあるかと聞かれて、ファラの胸に怒りが湧き上がる。
「……お前にだけは言われたくない!」
ファラは声を荒げた。
「お前に弱いものの何がわかる。何時でも頂点に立ち、下を見たことのないお前に!」
確かにロウドは生まれながらに強い竜だった。優れた血統に恵まれた環境。幼い内から次代の長と目されて、その期待に充分応えてきた。
(……ロウドってやっぱり俺様なのね。)
翠子は心の中で思う。
「お前に虐げられて生きる者の気持ちがわかるものか!」
叫ぶファラの気持ちもわからなくもない。
しかし、対するロウドは…………やっぱり俺様だった。
「確かに私にはお前の気持ちはわからぬな。自らを自身で一番蔑む者の気持ちなどわかりたくもない。…………お前とヤトを一緒にするな。ヤトの心の強さだけは私も認めている。でなければ私はアキコの傍にヤトを近づけはしない。」
どこからどう聞いても俺様発言である。
それでもロウドがヤトを他の竜から庇った事だけは間違いなかった。
「ありがとう?」
一応翠子は礼を言った。
微妙なニュアンスにロウドが顔をしかめる。
ファラは憎々しそうにそんなロウドを睨んでいた。
カイザは傍観している。
ギョクは薄く笑った。
 




