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界渡りの物語  作者: 九重
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番候補 2

やっぱりねとギョクが苦笑いする。


「わかっただろう?――――っていうよりわかっていたんだろう?ロウド。ほら、勘違いしたふりで抱き付くのは止めて、さっさと可愛い子ちゃんから離れてよ。」


ギョクの言葉に、ロウドは忌々しそうに舌打ちする。


「本当にお前はお喋りな竜だな。」


翠子からしぶしぶ離れながらも、ギョクを睨み付けた。


遅まきながら、自分が無意識にロウドに対し熱烈な好意を伝えていたことに気づいて、翠子は顔を赤くする。


「ロウドったらどうして教えてくれなかったの?」


翠子の抗議にロウドは必要ないと思ったと答えた。


「私はお前を他の竜に会わせるつもりなどなかったからな。長との面会の後は、私のテリトリーに連れ帰り一生そこで守るつもりだった。」


大真面目でそんなことを言う


翠子は言葉もなかった。



「ロウドったら俺様で、しかもヤンデレ監禁系なの?」



……翠子の言葉は、幸いにしてこの世界では訳となる言葉が存在せず、他の竜やヤトには通じない。


「何だそれは?」


ロウドの疑問に、翠子は何でもないと首を振った。




――――ククッと、笑い声が聞こえたのはその時だった。


「なんとなく俺には彼女が何を言ったのかがわかるな。」


そう言いながら、翠子の番候補である最後の竜が現れる。


それは白い竜だった。

シミ1つないどこかの洗剤のコマーシャルのような輝く白!


「うっわぁ!スゴくキレイ!」


思わず翠子は叫んでしまった。


「ほら、また可愛い子ちゃんたら。」


ギョクが呆れたように注意する。


(だって仕方ないわ。本当の本当にキレイなんだもん!あぁ、 せめてこの十分の一でいいから白くなりたい!!)


翠子は心底そう思う。

美白は乙女の永遠の憧れである。


クククッと今度は皮肉そうに白い竜は笑った。


「俺のこの白をそんな風に言うのか?……確かに貴女は変わり者のようだな。白は我らにとっては弱さの象徴だ。白を誉める竜など、この世界にはいない。」


笑っていながらも、白い竜の赤い瞳は物騒に光っていた。


この世界には、白竜はいないらしい。だとすれば、この白い竜はメラニン欠乏の遺伝子疾患を持ったアルピノと呼ばれる存在なのだろう。

自然界において突然変異のアルピノは弱い個体が多い。おそらくそのためにこの白い竜は、周囲から忌嫌われてきたのかもしれなかった。


「そんなこと関係ないでしょう?事実あなたは綺麗だって私は思うんだし、あなたも強いから此処にいるんじゃないの?」


翠子の前にいるということは、この白い竜が番選びに残ったということだ。そんな竜が弱いはずがない。

ひょっとしたら彼はアルピノではなく、ホワイトタイガーやホワイトライオンのような白変種なのかもしれなかった。

日の光を浴びて燦然と輝く白い体には、紫外線に弱い様子は少しも見受けられない。


(目の色からしたらアルピノなんだけど、異世界だしね?)


そう思う翠子に対し、ロウドが抗議の声をあげた。


「確かに、そいつは強いが、その強さと私の強さを一緒にされるのは、ごめんだ。そいつの戦いには、正義がない。」


「俺も今回だけは、ロウドに賛成かな。ファラと戦うのは気が抜けなくて疲れるよね。」


ギョクもロウドに追随するような声を上げる。


どうやらこの白い竜は、ファラという名前のようだった。

そしてロウドたちの発言から察するに、おそらくなりふり構わぬ戦いをするのだろう。

白い色を忌み嫌われ、虐げられて生きてきた竜が強くなるためには、手段など選んでいられたはずがない。


(悪役プロレスラーみたいな感じかしら?)


翠子はそんなイメージを抱く。


……竜とプロレスラーを一緒にするなんて、翠子以外にはできないことだろう。


(それでも悪役レスラーだってもの凄く鍛えているはずよね。)


翠子の通っていた中学のクラスメイトの中に、すごくプロレス好きな男の子がいた。「あんなものショーだろう?」と揶揄する他のクラスメイトに対し、彼はどれほどプロレスラーが自分を鍛えぬくのかを熱く語っていた。


その言葉を思い出す。


「努力しないで強い者なんていないと思うわ。努力は尊いのよ!少なくとも私は、彼を尊敬するわ。」


キッパリと翠子は言う。


――――なにせ翠子は努力せずに、この世界一の強さを得てしまった界渡りなのだ。

そういう生き物なのだと言ってしまえばそれまでだが、翠子はなんとなく後ろめたい。


自分に比べればファラは数倍凄いと思う。


(もっとも、私のどの辺が強いのかはさっぱりわからないけれど……)



考え込む翠子を、当のファラは睨み付けてくる。


「お優しいことだな。庇われても俺は感謝などしないぞ。」


「そんなつもりはないわよ?」


なんでそんなことを言われるのかとびっくりする翠子に対し、悪態をつきながらも、しかしファラの白い体はどことなく赤くなっていくような気がする。


赤い瞳と目があえば、スッと目を逸らされて、なのに翠子が視線を外せば、ジッと見つめてくる。



(まさかのツンデレ?しかもひょっとして天の邪鬼とか?)



思わず翠子はファラを凝視した。

白い尾が微かに揺れているのを見て自分の考えを確信する。





俺様で監禁系のロウド。


軽い言動は、どう見てもチャラ竜のギョク。


ナルシストのカイザ。


ツンデレで天の邪鬼のファラ。





翠子は天を仰ぐ。



(私の番候補には、まともな竜はいないのぉっ?!)



心の中で咆哮を上げた翠子を責める者は、誰もいないだろう。

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