一番好き 3
翠子とヤトは竜と人間だ。
種族も違うし生きる場所も時間もまるで違う。
それでも2人の心は、今この世界で一番近いと言えるだろう。
「…私、番も選ぶし、ヤトに安心してもらえるように竜として幸せになるわ。だけど…ううん、だからヤト以外の存在を私の一番にしようとしないで。」
それは翠子のわがままだった。
竜として生きる翠子の中の人間の少女だった心のわがまま。
呆れられて、今度こそ何を言っているのだと怒られると思ったのに……ヤトは、それも良いかと苦笑した。
「俺は人間だ。その事に何の不満もない。ただ、それでは自分の一番大切な存在に手が届かない。その苦しさを一生抱いて生きていくのだと覚悟していたが……苦しむ必要はないのかもしれないな。」
ヤトは、嬉しそうに笑った。
「俺達がこれからどんな人生を送って、どうなっていこうとも、俺達が互いを大切に思うのは自由だ。それでいいのかもしれない。……お前に言われて、そう思った。」
翠子は大きく頷く。
「私、私がヤトを大好きだって事を認めてくれないような竜とは、番にならないわ。」
大真面目で宣言した。
ヤトは、目を見開き――――、その後くしゃくしゃに顔をゆがませて笑う。
泣き笑いのようなその笑顔。
それでも、その姿をカッコイイと翠子は思ってしまう。
「それは、ロウドが可哀想だな。」
やがて、ヤトはそう言った。
「何で、やっぱりロウドなの?」
翠子から見たらロウドは俺様だ。確かに優しい所もあるし嫌いではないが、番としてどうかは別問題だと思う。
「ロウドがお前を離すはずがない。」
なのにヤトは当然というようにそう答える。
「何で?」
「俺にはわかる。」
「何それ?」
翠子の疑問にも、ヤトは意味深に笑うだけだった。
(わからないはずがない。)
ヤトは、心の内で思う。――――ヤトとロウドは同じだった。
同じように翠子を、この特別な竜を愛している。
(もっともロウドは、人間なんかと一緒にするなと怒るだろうがな。)
例えようもなく誇り高く、しかしその誇りを翠子のために折ることのできる竜。
己の背負うすべてを放り、翠子と共に竜の国に来ることを選んだヤトと、その根底にあるものは同じだ。
竜の番争いなど、ヤトにしてみればする必要のない無駄なものにしか見えなかった。
勝つのは間違いなくロウドだ。
おそらく圧倒的な強さを見せて他をねじ伏せてくる。
目に見える結果だろう。
――――そして、そのヤトの予想は、現実になる。
ロウドは番の最終候補として圧倒的な強さを見せて残った。
しかし、ヤトの予想外のものもあった。
最終候補には他にも3頭の竜が残ったのである。
何より予想外だったのは……
「可愛い子ちゃん!また会えてスッゴク嬉しいよ!!」
喜びも露にクルクル飛び回る赤い竜の存在だった。
 




