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界渡りの物語  作者: 九重
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邂逅 2

(イヤだ死んじゃう、溺れちゃう!)


湖に落ちた翠子はジタバタと体を動かした。

必死で上だと思う方に体を浮かび上がらせ、急激に水から外へと飛び出した。


空気を求めて大きく息を吸う。


後日、竜は自ら空気を創り出すことが可能で溺れる心配は無いのだと知るが、今現在の翠子にはその知識はなかった。


まさに溺れかけた者が必死で息をするようにハアハアと大きく喘ぐ。


翠子の呼吸に合わせて湖の水面と周辺の木々がざわざわと揺れた。


もっともそれを気にかけるような余裕は翠子にはない。


何とか水面に浮かび息をしようとする翠子の耳に…


「静まれ!頼む静まってくれ!このままじゃ周りに被害が出る!」


切羽詰まった声が聞こえたのはその時だった。



驚いた翠子は声のした方にグルリと首を向ける。

悲しいことに文字どおり長い首がそちらへと伸ばされた。



(人間!?)



湖の岸に居たのは紛れもなく人間だった。


(ウソッ!…ホント?ホントに人間?)


翠子の胸に信じられないような喜びと安堵が込み上げてくる。

翠子は…竜の君臨する世界に人の居る可能性を忘れていたのだった。



翠子の居る場所から随分遠く離れた湖岸にいるその人間が何故かよく見える。

特別仕様な竜の目のおかげなのだが、翠子はそんな理由を大して気にせず目を凝らす。




その人間は若い男でスラリとしていて背が高く見えた。


(ウソッ!凄いイケメン!)


思わず翠子は心の中で叫ぶ。

そのくらい男の顔は整っていて、その姿形は見惚れる程に格好良かった。


いくら竜になったとはいえ翠子の意識は人間だ。このわけのわからない状況下でようやく会えた人間。しかもとびきりのイケメンとくれば、翠子が彼にすがらないはずがなかった。


「お願い!助けて!」


翠子は思いっきり叫び、男の方に近づく。


竜の咆哮がビリビリと周囲の空気を震わせた。

竜の動きと共に静かな湖面に大波が起こりその咆哮で大気が荒れる。


下手な気候の変動より余程大きな影響にヤトは舌打ちをした。


「静まれ!頼む!」


この湖を森ごと潰す気か?と声を張り上げ制止するヤトが気に入らなかったのだろうか、竜が一直線にヤトに向かって来る。


咄嗟に体を伏せたヤトに牙を向けた。



(喰われる!)



ヤトは身を縮める。





竜に抵抗などできるはずもなかった。


自分はこんなところで死ぬのかと、絶望の中でヤトは唇を噛み締める。


しかし…いつまでたっても衝撃は来なかった。



ヤトは、ようやく何も起こらない事に、気づく。



恐る恐る上げた顔の眼前に竜の巨大な顔があった。


「!!」


思わず硬直するヤトの耳に…



「お願い助けて。」



信じられない声が聞こえた。


「私、気がついたら此処に、っていうか此処の空の上にいたんです。もう落ちるし、怖いし、水に潜るし…訳わからないし、体はこんなになっちゃうし、私、私。」


ガウガウと竜が唸る。


それと同時に脳内に大きく響く声に、ヤトは頭を押さえた。



竜の特殊能力の翻訳機能だった。



全く竜の力は規格外だ。種族の違う人間に苦も無く言葉を通じさせる。


ヤトはその力に畏怖しながらも、今聞いた話に眉をひそめた。



(気がついたら空の上?…この竜は転移先を間違えたのか?というか、この話し方…この竜は子供なのか?)



竜の言動はあまりにも幼かった。

まるで女子供のようだとヤトは思う。

そしてそう思えば多くの事に合点がいった。



何より竜なのに落ちて(・・・)きた事に。



(飛び方もわからない子供なのか?)



竜の子供など見た事も聞いた事もないし、何よりこれ程竜に近づいた事自体がなかったが、おそらくそうなのだろうとヤトは想像する。


「お前はいくつだ?」


気づけばヤトはそう聞いていた。


竜に対してそんな言葉づかいをしては、その瞬間噛み殺されても文句は言えないのだが、何故かこの竜ならば大丈夫だと思えてしまう。


そして思ったとおり長い首を捻った竜は、「15歳です。」と律儀に答えた。

15歳はこの世界の人間ならば立派に成人していると言える歳なのだが、千年単位の寿命を持つ竜にとっては赤子も同然なのかもしれない。


(この体で赤子…)


はじめて見る竜の赤子にヤトは目を瞠った。

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