一番好き 2
「ロウド?何でロウド?」
翠子はびっくりして首を傾げる。
ヤトは、困ったように眉を下げた。
「アキは、ロウドが好きなのだろう?」
「へっ?」
翠子は本気で驚いた。
「ロウドは間違いなくお前が好きだ。そしてお前も他の竜よりずっとロウドに心を許している。お前が、近くに寄られても嫌がらないのは、ロウドだけだ。」
ヤトの顔は、真剣だった。
「えっ、えっ、えっ?何それ?それは、確かにロウドは、ずっと側にいたし、何より綺麗な碧色をしているから、怖くはないけれど……でも、でも、そんな!好きだなんて!」
翠子は慌てて否定した。
自分はロウドに対してそんな感情を抱いていない。
(私が好きなのは……)
翠子は、何だか泣きたくなってきた。
「ロウドが嫌いなのか?」
真剣な顔のままヤトが聞いてくる。
「嫌いじゃないわ。」
「ならばロウドのことを真剣に考えてやれ。お前は、長となるに相応しい番を選び、竜の国の王とならなければならない。ロウドになら充分その資格がある。何よりロウドはお前を誰より大切にしてくれるだろう。長い時を寄り添う番を選ぶなら、互いに愛し愛される相手を選ぶ方がいい。」
ヤトの言葉は正しい。
正しくとも翠子は悲しかった。
どんなに強いと言われても、翠子はまだ15歳の少女なのだ。生涯の伴侶を選ぶようなことを、何もかも理詰めで説得されても、納得できるはずがなかった。
ましてや翠子は、ヤトが好きなのである。
自分が好きな人から、他の相手を薦められるなんて――――
(イヤだ……)
翠子は、そう思った。
思った瞬間、言葉がこぼれ出た。
「イヤよ。だって、私の好きなのは、ヤトだもの。」
言ってもどうにもならないことだった。
竜の自分の番に人間を選ぶことなどできない。
――――きっと、バカな事を言うなと呆れられるのだと思った翠子は、下を向く。
けれど、いつまで経ってもその言葉は聞こえなかった。
そっと顔を上げて見る。
「えっ!?」
目に入ったのは、真っ赤な顔をしたヤトだった。
「ヤ、ヤト…顔が」
「こっちを見るな。」
ヤトは赤い顔のまま、クルリと後ろを向く。
見るな、なんて言われても、どうしても凝視してしまう。幸いにして翠子の竜の首は長い。視力もものすごく良かった。
首を伸ばして確認したヤトの顔は、やっぱりまだ赤かった。
(か、可愛いかも)
翠子の胸はキュンとする。
「ヤ、ヤト?」
「仕方がないだろう!好きな相手から好きだと言われれば顔くらい赤くなる!」
ヤトはやけくそのように叫んだ。




