長と王 2
「ち、違います!私、神様なんかじゃありません!!」
我に返った 翠子は慌てて長の発言を否定する。何で誤解されているのかわからないが自分が神様なんてものじゃない事だけは間違いなかった。
しかし長は大きく首を横に振る。
『間違いではありません。貴女は”界渡り”でいらっしゃるのでしょう?』
その言葉に、翠子は大きく目を見開いた。
「ど、どうしてそれを?」
まさか自分を界渡りだと知る存在が、この世界にいるとは思ってもみなかった。
長はゆっくりと首を縦に動かし翠子を見る。
『竜族の王は、代々界渡りと決まっています。』
「え?」
『そもそもの竜族最初の王が、界渡りでした。』
翠子は呆気にとられ耳を疑う。
長はそのまま話しはじめた。
――――その昔、竜族は力だけが全ての野蛮な獣だった。
人もその他の生き物も、種族としての意識すら持たず、存在していたのかどうかもわからぬ遥かな昔――――そこに最初の界渡りが現れた。
『かの方は獣であった我らに知恵と知識を与え文明を起こし、我らを統治されました。』
長の声は深い憧憬に満ちて語られる。
圧倒的な力で竜族の頂点に立った界渡りは、竜族最初の王になった。
長く生き、竜を導いた王は自分が亡くなる際に、自分の死を嘆き悲しむ竜達に「いずれまたこの地に自分と同じような存在が界を渡って来るだろう」と予言を残した。
その者は自分と同じ”界渡り”という種族で、同じように優れた力と穏やかな資質を持つのだと。
翠子は目を瞬いた。
確かにそれは自分と同じ界渡りだったのだろうと思われた。
界渡りは、テリトリーを求めて界を渡る生き物だ。あまりに大きな空間を自分のテリトリーにするため、一つの星に一人か二人しか存在できない界渡りだが、そこに居た界渡りが死ねば、その場所は空くのである。当然空いたテリトリーに他の界渡りが渡って来る可能性は大きい。
………この世界にも自分と同じく界を渡り、竜となって住み着いた先輩がいたのだと翠子は思う。
(だからって予言なんか残してくれなくていいから!何、その完全無欠の聖人みたいな予言。だいたい自分と同じって何?力で竜族の頂点に立った存在が穏やかってあり得ないでしょう?)
いろいろ突っ込みどころ満載な遺言だった。
ともあれ、 以来竜族は、王の座をいつか現れる界渡りに空けて待っていたのだそうだ。
だからこそ、目の前のこの竜は、竜の長であり、王ではない。
『貴女で三代目の王です。』
長は重々しく告げた。




