長と王 1
その後、スピードを上げたロウドと翠子についてこられる竜は現れず、2頭の竜は順調に長の元に着く。
竜でなければとても越えられぬような険しい山脈に囲まれた深い谷。
そこにいたのは、まるで自然の中で長い年月を経た岩雄のような威厳を持つ大きな竜だった。
(凄いっ、なんて威圧なの!)
唯そこにいるだけで、ビリビリとした空気の波動を自分たちに感じさせる竜に、目を奪われる。
まるで山が動くかのような印象を与えながら、大きな竜――――竜族の長は、翠子達の方を向いた。
ゴクリと翠子は息をのむ。
『お待ちしておりました。我らの王。』
威厳に満ちた深い声が谷に響いた。
オウゥ、オウゥという木霊が返り、空気を震わす。
その響きに意識を奪われた翠子は、長の言葉の意味がなかなか頭に入らなかった。
(え?…王?…王って言ったの、この竜?)
ようやく、声が意味を伝え、翠子は呆然とする。
『長!それはどういう意味です?!』
耳元で、ロウドが大声を上げた。
翠子は愕然として声も出ない。
『そのままの意味だ。若き雄竜よ。お前がお連れしたその方は、我らの王となるべくこの世界に降りし神々の一柱であられる。』
重々しく長の声が再び響き渡る。
ロウドは絶句した。
「―――――――へ?」
翠子はとんでもなく間抜けな一声を上げた。




