竜の国 4
「ロウドったら、そんなにわがままなことしているの?」
心底呆れたような翠子の言葉に、ロウドは焦る。
『わがままなど言ってはいない!私は、自分が聞くべき価値があると判断したものはきちんと聞いているし、従いもする。――――決して、自分本意で動いているのではない!』
必死に言い訳するロウドに、翠子は疑わしそうな目を向ける。
今までのロウドの行いを見れば、赤い竜の言う事もまるっきり嘘ではないだろうと思えてしまう。
『信じてくれ!アキコ。』
翠子に、すがらんばかりにロウドは懇願する。
その姿に、他の竜が驚いた。
『凄い!こんなロウドを拝める日が来るなんて、今日まで生きてきたかいがあった。』
しみじみとギョクが呟く。
他の竜も同意するように首を大きく縦に振った。
ロウドがそんな竜達をギロリと睨み付ける。
『貴様ら!これでアキコが私を嫌いになったらどうしてくれる!?』
八つ当たりで脅すロウドに、翠子はなおも呆れた。
「――――それでは、逆効果だろう?」
それまで竜達のやりとりを傍観していたヤトだが、見かねてついにロウドに意見する。
『?!――――』
ようやく竜達は、ヤトの存在に気づいた。
『えっ、人間?……何で人間が、ここにいるんだ?』
ギョクがすっとんきょうな声を上げる。
全く今更なことだった。
翠子は呆れて、大きなため息をつく。
「竜って目が悪いの?」
「単に人間など眼中にないだけだろう。」
首を背中に伸ばして問いかけた翠子にヤトは肩を竦めて見せた。
その、翠子とヤトにとっては当たり前なやりとりに、ロウドを除いた竜達は目を瞠る。
『!……何で人間なんかがここにいて、可愛い子ちゃんにそんな気安い口をきいているんだ!?』
それは竜の常識では、あり得ない事だった。
「ヤトは私の大切な人なのよ!ヤトをバカにするような発言は許さないわ!」
翠子は竜達の態度にぷりぷりと怒り出す。
竜達は呆気にとられて口をパカンと開けた。
驚き過ぎて飛ぶスピードが落ちて少し後方に下がった竜達の前に、ロウドが立ちふさがる。
『これでわかるだろう。アキコはまだ幼い。今、お前達の見た通りアキコは我らの常識を持たぬ竜だ。私は彼女を一刻も早く長の元に連れて行きたいと思っている。――――邪魔をするな。』
ロウドは、翼を大きく羽ばたいた。
『アキコ、来い!』
グンと上昇したロウドが、そのままスピードを上げる。
その高度と速さに、他の竜は慌てふためいた。
『待ってくれ!』
当然ロウドがその言葉を聞くはずもなく、3頭の竜は置いてきぼりになる。
しかし翠子は、急な行動に驚きながらも難なくロウドのスピードに追いついていた。
ロウドが満足そうに笑う。
『やはり、私の番はお前以外いない。』
ロウドの言葉は確信に満ちていた。
翠子はキョトンとしてロウドを見返す。
振り返って置いてけぼりになった他の竜を見て、首を傾げた。
「番って、飛ぶ速さで決まるの?」
なんとも無邪気に翠子はそう言った。
ヤトがブッと吹き出す。
『……早く長の元に行こう。』
どこか疲れたようにロウドが話す。――――何でロウドが疲れたのか、さっぱりわからぬ翠子だった。
 




