竜の国 3
赤い竜は、勢いよく上昇すると急に下降し、そしてまた上昇と下降を繰り返す。そのまま翠子を中心にして、クルクルと縦回転をはじめた。
(……目、目が回る。)
その動きを追っていたおかげで、頭がフラフラしだした翠子は、慌てて目を反らす。
(竜の飛翔能力って、スゴイ。)
しかし、どうやらスゴイと思っているのは翠子だけのようで、左隣の鈍色の竜も、背後の黄褐色の竜も赤い竜には目もくれない。
2頭とも、翠子に何か話しかけようとしているようなのだが、その度にロウドに睨み付けられて言葉にできないでいた。
ロウドは、今度は赤い竜が上に上がって来た瞬間をとらえて、ドン!とその小さな体に当たりをする。
『うるさい。落ち着け!』
当然、赤い竜は急旋回しながら落ちていった。
「キャァ!」
思わず翠子は悲鳴を上げる。驚き心配する翠子に、しかしロウドは『大丈夫だ』と素っ気なく言った。
『心配いらない。あいつは殺しても死なない奴だ。』
何てことを言うのだと憤慨しそうになった翠子だが、なんとロウドの言葉通り、赤い竜はあっという間に復活して飛び上がってくる。
『ロウド、酷いじゃないか!』
『黙れと言っているだろう。ギョク、お前は落ち着きが無さすぎる。』
竜の恥だと冷たくロウドは言う。
どうやら赤い竜の名前はギョクというらしい。
翠子はそのやりとりに目を白黒させた。
なおもロウドは、ギョクの普段の行いの悪さを、冷静にあげつらう。
「……ロウドったら言い過ぎでしょう。」
あまりの言いように、翠子は思わず口を挟んでしまった。
途端に竜達がシンと黙りこむ。
「?」
翠子は、その急激な変化にキョトンとした。
『……す、凄い!君は、ロウドに意見出来るの?』
赤い竜ギョクがポカンと口を開けながら聞いてくる。
「え?――――意見なんて、そんな大したものじゃないけれど」
目に余るなと思ったところをちょっと注意しただけだ。別に普通のことだろうと翠子は思う。
『大したものだよ!だって相手はあのロウドだよ!?傲岸不遜で俺様で、長以外の竜の言葉になんか絶対従わないっていう、あのロウドなんだ!』
興奮のあまり翼をバタバタし――――つまりは、フラフラと危なっかしく飛びながら、ギョクは力説する。
ロウドはギョッとして赤い竜と翠子の間に体を滑りこませ…………翠子は、大きくため息をついた。
 




