表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
界渡りの物語  作者: 九重
6/111

邂逅 1

男の名前はヤトといった。


まだ年若い男で、鍛え抜かれた痩身(そうしん)とその年齢の割には深く鋭い目を持っていた。

大地にへばりつき、まるで身を隠すかのようにひっそりと独り旅をしていたヤトは、先刻急に空の一角に現れたように見えた竜を困惑気味に見上げていた。


急に現れたことに驚いたのではない。

竜は至高にして最強の種族だ。その能力は自分達人間の理解の範疇を超えている。竜が何をしようとも、そこに不思議はないし否やもない。


ヤトが不審なのはその竜の様子だった。


「何だ?まさか飛べないのか?」


そんなバカなとは思うのだが、現実に竜は空中でバランスを崩している。

その危なっかしい姿に目を疑った瞬間、竜は動きを止めると真っ逆さまにこちらに向かい落ちてきた。


「嘘だろう!?」


叫ぶヤトの目の前で派手な水飛沫を上げて竜が湖に落ちた(・・・)




前代未聞の竜が空から落ちるという事態に、ヤトは慌てて湖に向かう。


(怪我でもしているのか?)


何はともあれ竜を放って置くわけにはいかなかった。

竜は見て見ぬふりをできるような存在ではない。

此処は人の世界では辺境で、ヤト以外の人間は誰もいないと思われるため、自分が行くしかなかった。


そんな辺境にいるヤトにも理由はあるのだが、竜という存在の前にはそんな理由を気にしている場合ではない。


ヤトは、息を切らして走る。





森の奥深く、人の決して寄り付かない場所にその湖はあった。


対岸が見えない程に広く、深さは計り知れないと言われるその湖は辺境に住む者の信仰の対象になっている場所だ。

その辺境の民も数十年に一度の神事以外は近づいてはならぬとされている場所でもある。



だからこそヤトの格好の隠れ場になっていたのだが…。


今、その隠れ場の湖はざわざわと波立っている。

竜が落ちたのだから当たり前だ。

とはいえ水面上には何も見えない。

ひょっとして、また転移したのだろうかとヤトが思った途端、ゴボゴボと湖が沸き立つ。

バシャ〜ン!と大きく波立って、水中から黒い巨体が現れた。


(デカい!)


その竜はひどく大きかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ