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界渡りの物語  作者: 九重
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旅立ち 13

『お前には、雌竜としての慎みが足りない。』


まだ怒り足りないのか、ロウドはそんな事を言ってくる。

どうやら竜の世界では雌竜はたいへん大切にされ、雄竜から風にも当てぬ程に溺愛され守られるようだった。

本来であれば、今の翠子のように何の(おお)いもないような場所で眠る事すらないそうだ。


雌竜にいかに居心地良く安全な住みかを与えられるかが、雄竜の甲斐性の見せどころなのだとロウドは言う。



『我はお前のため(・・)ならば、最高の住みかを作って見せる。』



ロウドはそう言って胸を張った。


翠子は、そんな楽々外にも出られないような生活は嫌だなと思う。


「窮屈そう。」


思わずポツンと呟いた。


途端にロウドは、自分の作る住みかがどれ程大きいかを力説してくる。


『窮屈な思いなど決してさせない!』




(えっと、大きさの問題じゃないんだけど……)


それに自分にそんな主張をされても困ると、翠子は思う。


“お前のためなら”というロウドの言葉を、きれいにスルーする翠子であった。





結局その後、ヤトは翠子の翼の下で眠った。


ロウドは、ヤトと翠子を一緒に眠らせるくらいなら自分がヤトと寝ると主張したのだが、それは翠子が頑として了承しない。


「絶対踏み潰すに決まっているわ。」

『そんな事はしない!』

「だったら蹴飛ばすとか。」

『俺の寝相はそんなに悪くない!』


喧々諤々と言い合う竜2頭を、ヤトは呆れたように見上げる。


「だいたい何をそんなに気にしているのよ!私は竜でヤトは人間なのよ。」


ロウドがそれほどまでにヤトを警戒する理由がわからなかった。


しかしどうやらその理由は当のロウドにもわからぬようで――――


『わからぬ。わからぬが気にいらぬ。』


そんなロウドの主張に翠子は呆れた。



「子供みたいな事を言わないの!」



翠子のその一言にロウドは酷くショックを受ける。


……結局、ロウドは諦めざるを得なかったのであった。





ようやく勝ち得た2人きりに、翠子はドキドキしながらも翼でそっとヤトを覆い、体を丸める。


トクトクと伝わってくるヤトの心音に、心が安堵するのがわかった。


それなのにヤトは、よりによってロウドの話題をふってくる。


「あまり邪険にしてやるな。」


「だってヤトに対する態度がヒドいんだもの。」


「竜ならば、あれが普通だ。」



――――例えそうでも、翠子はイヤだった。


「竜だろうと人間だろうと相手に蔑まれたら嫌に決まっているわ。そんなの当然の事でしょう?」


翠子の主張にヤトは困ったように笑う。

それは竜と人間のように対等ではあり得ない関係の中では当然ではなかった。


ヤトはあらためて目の前の竜の特異さを思い知る。

目を細めてアキを見上げた。



この竜は、いったいどんな理由があって自分の元に落ちて来て、これからどんな風に変わっていくのだろうと、ヤトはしみじみ考える。



(できることならば変わって欲しくない。)



もしロウドのような冷たい瞳をアキに向けられたなら、ヤトは自分が酷くショックを受けてしまうだろう事が容易く想像できた。



「アキ、一緒にいてくれ。」



ヤトは、この竜の成長と変わっていく姿を一番近くで見たいと強く願う。


「うん。一緒に竜の国に行ってね。」


翠子は、笑ってそう言った。

竜の目が眠そうに閉じられる。





竜の国に行ったヤトが、果たして無事に戻れるものなのかどうかはわからない。


そんな保証はどこにもない。


それでもいいとヤトは思ったのだった。

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