旅立ち 6
一刻も早くヤトを安全な場所に連れて行きたい。
その邪魔をするのならば誰であろうと許すつもりはなかった。
爛々と睨み付けてくる翠子の黒い瞳を見つめて、ロウドは深いため息をつく。
『……どうしてもなのか?』
翠子決意が変わるはずもなかった。
『お前は今その人間の運命を変えようとしている。それでもか?』
――――そんなものは、そもそも翠子がヤトと出会った時に変わっている。
ロウドが言うのがそれ以上の意味を持つのはわかるがそれでもそれは今更の質問だった。
『ヤトを救えない運命を私は認めないわ。』
例え何がどうなろうとも、今この場でヤトを見捨てて飛び去る事だけはできなかった。
ロウドの翼が大きく動く。
『ついてこい。』
そのまま上昇した。
翠子も続いて翼をきる。
ロウドの後を追いながらも、翠子は口の中のヤトの様子が心配だった。微かな呼吸音は聞こえるから生きてはいるのだろうが――――
『安心しろ。その人間は眠っているだけだ。深く気絶するような眠りだが死んではいない。』
ロウドの言葉にホッと息をつく。
ロウドの翼は完全に風を従えていた。
翠子の前からくる風は、翠子を支えるように吹いてくる。
ヤトの無事を翠子に教えたきり黙って飛び続ける碧の竜の大きな後ろ姿を見つめた。
『ありがとう』
翠子はそっと呟く。翠子を支える風をロウドが操っているのは間違いない事だった。
『竜が連れだって飛ぶ時に互いを支えるのは当たり前の事だ。』
それは翠子にとっては初耳の事だった。
『私は、そんな事も知らないの。……ヤトは私が全然飛べなかった時に私を助けてくれた人なのよ。』
翠子の説明にもロウドは振り返らない。
それでも風は変わらず翠子を支えていた。




