旅立ち 4
――――それより少し前、セタは事態に置いていかれ茫然としていた。
意識はまだ霞んでいて、今目の前で何が起こっているのかわからない。
わかっているのは、自分が手に入れたいと切望していた竜が去ってしまおうとしている事と、その竜に1人の男が声をかけている事だけだった。
「ヤト様。」
セタは呟く。
セタは、その男を知っていた。
卑劣な裏切りにより、弑されたかつての王族の最後の1人。当時の状況からその生死が不明とされ、絶望視されていた第二王子。
「生きておられたのか。」
茫然と呟いた。
ようとして行方のわからなかった第二王子が目の前にいる。
しかも、その王子は、竜をよく知るようだった。
竜に声をかけるその姿に、セタはギュッと唇を噛む。
朦朧としてはっきりとしない意識の中でセタは思う。
今、竜が去って行くのは全て第二王子のせいであると。
……状況も理論も全て越えた身勝手な断定。
真実はヤトのせいというよりセタのせいであろうが、それをセタが認めるはずがなかった。
わかっているのは、竜が去ろうとしているのにヤトは止めていないという事実。
(何もかも持って生まれた王族の傲慢。)
ヤトの行為をセタはそう受け取った。
竜の力すらもあっさり手放してしまおうとしているその様子にセタの怒りは膨れ上がる。
(殺してやる!)
セタは決意した。
どのみち生き残りの王族など見つけた瞬間殺される存在だ。セタに躊躇いなど一切なかった。
隠し持っていた剣を抜き放ちセタはヤトに迫る。
翠子がその様子に気づくのと、セタがヤトに襲いかかるのが同時だった。
「ヤト!」
「死ね!」
1頭と1人の声が重なる。
ヤトはギリギリ気づいてセタの攻撃をかわした。
慌てて迎え打つ態勢を整える。
それは間に合うかに思えた。
ふいをつかれたといえヤトは手練れの戦士だ。セタもかなりの剣の使い手ではあるが、その実力はヤトに遠く及ばない。
(間に合った。)
そうヤトが思った瞬間だった。
――――ガウゥッツ!!
いつの間にか戻って来ていたハヌが、ヤトに襲いかかってきた。




