旅立ち 2
おそらく竜の世界から迎えが来て、帰ろうとしているアキに何を言えば良いのかと、何が言えるのかと考えながら、ヤトの口は言葉を紡ぐ。
「キサは、助かった。長老も無事だ。2人とも元気で傷ひとつない!」
翠子の目が大きく見開かれた。ついで安心したように優しく和む。
「村の皆も全員無事だ。村はお前の強固な結界に守られて安心な地になっている。」
黒い竜はジッとヤトを見ていた。
まるでヤトの言葉の一言一言を全て聞き漏らすまいとするような真剣な視線が注がれる。
その姿に勇気づけられてヤトは叫ぶ。
「みんなお前に感謝している。突然去ったお前を心配している。お前を……」
ヤトは声を途切らせた。
「……キサは、怒っていた。お前に礼が言えなかったと、何も言えない内にいなくなるのはズルイと。」
(……違う。俺がアキに伝えたいのはこんな、他人の想いじゃない。)
翠子の体が小さく揺れるのを見て、ヤトは大きく息を吸い込んだ。
「俺は……お前に感謝している!お前に出会えた事、お前と過ごせた事、その全てが嬉しい!」
翠子の体は大きく震えた。
その黒い瞳を見返しヤトは叫ぶ。
「アキ、お前が好きだ!」
叫んだ途端その言葉はヤトの中にはっきりと根付く。
声は真っ直ぐに翠子に届いた。
「お前を誰よりもどんな存在よりも大切に想っている。……アキ!幸せになれ!!それだけが俺の願いだ!」




