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界渡りの物語  作者: 九重
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湖畔 6

セタの顔から表情が消え失せる。



「……まだ、生け贄が足りないのですか?」


「えっ?」


「ハヌごときではあなたのお心は得られない。もっと大きな生き物でなければ。」


セタは背筋の寒くなるような笑を浮かべた。



「何を言っているの?」


翠子は耳を疑う。


「確かに、ハヌなどより大型の獣の方が私の真剣さが伝わりますね。ああ、それとも人間の方が良いですか?私があなたの力を得るためならば、同族をも贄にする覚悟なのだと知っていただいた方が信用していただけるのでしょうか?」


セタの言葉はまるで理解できなかった。


翻訳機能の限界とかそんな事ではない。

異世界だからとかそんなものとも違う。

もっと根本的なそもそもの在り方が翠子とセタでは違うのだ。



目の前の男は、間違いなく人間に見えるのに、とてもそうとは思えない。



(きっと竜より遠い。)



翠子は思う。



……もうこれ以上セタを見たくなかった。


(消えて欲しい……)


無意識に願う。

その途端体の奥深くで、小さく力が脈打った。



(あぁ、でもきっと、この人は私がどこに跳ばしても、また戻ってきてしまう。)



絶望と共に翠子はそう思った。


(ならばどうしたらいいの?もう二度とこの人を見ないためには?……私は……)


頭の隅で警鐘が鳴っている。


なのにそれを聞きたくなかった。


自分が取り返しのつかない何かをしてしまいそうで……でも力は徐々に大きくなっていく。




セタはそんな翠子に気づくことなく、まだ自分がいかに竜の力を欲しているのかを訴えかけ、その為ならば何でもする覚悟なのだということを滔々と語っていた。




翠子の力が満ちる。


限界が近付いていた。


翠子の周囲に風が渦巻きはじめる。




―――前の時はヤトが止めてくれた。


でもここにはヤトがいない。


翠子の中の力は解放を求めて荒れ狂う。


ようやくセタも自分の周りがおかしいことに気づいた。


「何で景色が歪んでいるんだ!?」


歪んでいるのはセタの方だった。


竜に疎まれ、世界に疎まれてセタの存在は消え失せようとしている。


もう後ほんの少しだった。



……本当にわずかに翠子が身動ぎすれば、この世界からセタというとるに足らないモノが消え失せる。



そしてその瞬間……



『止めるんだ。』



堂々とした意志が響いた。

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