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界渡りの物語  作者: 九重
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湖畔 5

「私はそんなこと望んでいません。」


それでも翠子はセタにわかってもらおうと話す。

例えここでまたセタをどこかに飛ばしても、きっと戻ってくるだろうとわかってしまうからだった。


「それではどうすれば、あなたは私の側に居てくださるのですか?」


そのためであれば何でもいたしますとセタは本気で頭を下げる。

しかし、例えどれ程下手(したて)に出られたとしても、できないモノはできなかった。


「無理です。どうか私を放っておいてください。それがあなたにも一番良い事なんです。」


翠子の心からの願いは、セタには通じない。


「例え竜様の命令でもそれだけは聞くわけにはまいりません。竜様。あなたの御力が必要なのです。どうか我が国を助けてください。」


セタはそう言った。


「助ける?」


「我が国は今、正当な王が弑され王位の簒奪者が暴政を布いています。民は虐げられ、飢えて死に逝くものが後を絶ちません。どうか竜様のお力をもって哀れな民草をお助けください。」


翠子は谷間の村でのおじいさんの言葉を思い出す。

確かにそんな発言はしていた。


でも……セタは、その簒奪者の現王に尻尾を振る仲間だと糾弾されていたのではなかったのか?


(あの時のセタのセリフもそれを認めていたみたいだし……)


「あなたは、現王の配下なのでしょう?」


翠子の指摘にセタは哀しそうに頭を横に振る。


「そう振る舞うしか生き延びる術はありませんでした。私は命が惜しかったのです。」


セタは苦しそうに答える。


「私を信じられないのも無理はありません。でも、どうか私ではなく無辜(むこ)の民をお憐みになりお力をお貸しください。」



……セリフはたいへん殊勝であった。

うっかり翠子も頷いてしまいそうな雰囲気がある。


「でもあなたは、キサとおじいさんを殺そうとしたわ。」


翠子はあの光景を忘れはしなかった。


「あの時の私はそうするしかありませんでした。第一竜様が私の招きに素直に応じてくださっていれば、あんな事にはならなかったのです。」


そう言われてしまうと翠子も弱い。


それでも何の力も持たない子供を襲ったハヌを、セタが止めなかった事だけは間違いなかった。

やはり、セタに力を貸すなんて絶対できないと思う。


「ダメよ。私はあなたに力を貸したりしないわ。ううん。できない。しちゃいけないのよ。」


翠子は決意を込めて言った。

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