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界渡りの物語  作者: 九重
39/111

湖畔 4

「竜様…」


セタの言葉を翠子は遮る。


「なんでこんな酷い事をするの?なんで来るの?私は貴方に用なんか何もないのよ!」


顔も見たくない!と翠子は叫ぶ。


セタは困ったように笑った。


「私はあなたに恋い焦がれておりました。」


しゃあしゃあと口にする。


「こ、恋ッ…」


翠子の口はパカンと開いた。鋭い牙が並ぶ世にも恐ろしい口なのだが、セタは気にならないようだ。


「寝ても覚めても思い描くのはあなたの神々しい姿だけです。今、実際にこの目にあなたのお姿を映せて、胸は高鳴り心臓は喜びのあまり止まりそうです。」


気にならないどころではないセリフだった。情熱的に訴えられて翠子は顔をひきつらせる。


(神々しい姿って…)


ぜんぜん嬉しくない。そんな事を言われて喜ぶ少女なんかいないだろう。


翠子はガックリ項垂れた。


なのにそんな翠子に気づかずセタは言葉を続ける。


「竜様。どうか私と来てください。決して後悔はさせません。あなたを生涯大切にし、(あが)め敬うと誓います。」


どうかお願いしますと頭を地に着けるほどに下げられて、翠子の顔はなお引きつる。

崇め奉られて嬉しい女の子もいないはずだ。

どうしたってセタとは話があいそうになかった。


(この人は私を竜だと思っているんだから当たり前だわ。)


セタにとって自分は人ならぬ竜だ。

自分と同じ存在だなどと思いもしない。


その点ヤトは…違った。


(ヤトはいつだって私を同じ目線で見てくれた。)


それがどれ程に稀有で得難い対応だったかが、セタを見てわかる。



本当に心からヤトに会いたいと思った。

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