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界渡りの物語  作者: 九重
38/111

湖畔 3

残酷な表現があります。

苦手な方はお気をつけください。

上機嫌に喋るセタの言葉に、翠子は耳を塞いだ。


(そんな言葉に乗せられないわ。毒なんかいくらでも消してやる。)


強い決意で目も閉じた。

絶対出て行くものかと翠子は思う。



少しも揺らがぬ静かな湖面にセタは息を吐いた。



「本当に困りましたね。これだけはやりたくなかったのですが」



セタは―――笑う。


いつの間にか、セタの手には鋭いナイフが握られていた。


小さな手の一振りで、自分の使うハヌの中でも一番幼い一匹を呼び寄せる。


従順に近寄るハヌの首を掴んで持ち上げると・・・




その腹を一気に切りつけた!




ギャウゥン!という大きな悲鳴が静かな湖畔に響きわたる。


ボタボタと血が湖に流れ落ち、水が真っ赤に染まった。


見るも無残な光景が繰り広げられる。




目も耳も閉じても、臭いは水に乗って翠子の元に届いた。


慌てて周囲の気配を探った翠子は、セタが自分のハヌをまるで生贄を捧げるように屠ったのを知った。


自分の鋭過ぎる五感を心底恨む。


翠子の体の震えに連動するかのように、湖にさざ波が立つ。




一方セタは、もはやピクリとも動かないハヌの体を、岸辺に投げ捨てた。

うっかり湖の中に入れでもしたら、また竜の力で生き返させられ、全てなかったことにされてしまうかもしれなかったからだ。


「一匹では足りませんか?」


断末魔の痙攣をする自分のハヌに一瞥もくれずにセタは淡々と言葉を紡ぐ。


次のハヌを呼んだ。


殺されると分かっているはずなのにハヌはセタに従い歩み寄る。




「止めて!」




ついに、翠子は叫んだ。


ザバァ〜ッ!と水面を割りながら竜の巨体が表れる。


湖は沸き立ち、周囲の木々は嵐に遭ったかのようになびいた。



ハヌのほとんどが水に飲み込まれる。

投げ捨てられたハヌも水に引き込まれ、血に塗れた小さな体は直ぐに見えなくなった。

ひょっとしたら生き返るかもしれないなとセタはチラッと思う。

しかし今は自分が流されまいと、近くの木にしがみつく事の方で精一杯だった。



なんとか波をやり過ごし目を上げれば、水を纏いキラキラと光をはじく黒い竜の偉容に目を奪われる。



(私の竜。)



セタは、うっとりとそう思った。

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