表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
界渡りの物語  作者: 九重
36/111

湖畔 1

翠子は沈んでいた。


比喩ではない。文字通り水底にどっぷり潜っている。


ここは翠子がこの世界で最初に落ちた湖だった。


(…だって、ここしか知らないもの。)


そう、翠子にはこの湖の他に行けるところがなかったのである。

それでも、また誰かに見つかると悪いと思い、夜陰に乗じて湖に戻った翠子は、そのまま魚同様の水中生活を送っている。

竜が水の中で息のできる生き物であった事が心底ありがたかった。


(竜って両生類なのかしら?)


竜が聞いたら怒り出しそうな事を翠子は考える。

相変わらず自分のハイスペックさには無頓着な翠子であった。




―――水中で翠子が何をしているかと言えば、ただただ泣いている。


自分の涙で湖の水位が上がるんじゃないかと思うほど翠子は泣いた。


(ヤト、ヤト、ヤト…)


思う事は1つである。


(ヤトがいないなんて…これからどうしたらいいの。)


翠子は途方にくれる。

たまらなくヤトに会いたかった。

ヤトに迷惑をかけられないと自分から逃げてきたのに、こんな事ではダメだと思うのだが、涙は少しも止まってくれない。

悲しみは深まるばかりだ。


湖の底深く翠子は、踞る。


このまま溶けて無くなってしまいたいとさえ翠子は思っていた。




そのままどれ程経ったのだろうか、もはや時間の感覚もわからなくなった頃―――翠子は湖の水面に何かの波紋が広がるのを感じた。


(ヤト!?)


咄嗟に思ったのはヤトの事だ。

側に居てはいけないと思うのに、ひょっとしたらヤトが探しに来てくれたのではないかと期待してしまう。


水中で翠子は目を凝らし、耳をすませた。




・・・男の声が聞こえてくる。


「竜様、おられるのでしょう。」


―――なのに聞こえてきたのは、一番聞きたくない声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ