谷間の村 12
自分は、自分の心一つで全てを滅ぼす事ができるのだと、絶望の中で翠子は自覚する。
(私はここに居ちゃいけないんだ。)
こんな化け物のような自分が居たら、周囲に迷惑がかかる。
翠子は、そう思う。
例え翠子にその意志がなくとも、強すぎる力はしばしば人を不幸に陥れるものだった。
小中学校と地球で義務教育を受けた翠子には、それがわかってしまう。
一刻も早くこの村から離れなくてはならなかった。
翠子は、自分の中に残った力の全てを使って村に結界を張った。
(悪意のある人が誰もこの村に出入りできないように。)
…こんな事くらいしか、今の自分にはできることはないのだと思う。
泣きたいのをこらえて上を向いた。
翼を広げる。
(行かなくっちゃ。)
もう一度、自分に言い聞かせるかのように思う。
急げ!…でないと、
「アキ!!」
ヤトの叫び声が聞こえた。
翠子を引き留め、慰め、甘やかしてくれるだろう、かけがえのない程に大切なたった1人の人。
(このまま居たら、私はきっといつかヤトを危険な目に逢わせる。)
―――風が吹いた。
翠子は大きく翼を1つ動かす。
それだけで竜の巨体は宙に浮いた。
「アキ!待つんだ。」
…待ったら、確実にヤトに言いくるめられてしまうだろう。
二度三度と翼を羽ばたかせる。
グン!と体が飛翔して、大地が遠くなった。
「行くな!」
(ありがとう、ヤト。)
翠子は、上を…上だけを向く。
そのまま上昇し、決して振り向かなかった。
何時の間にか雲が晴れ、青い空に竜の姿が吸い込まれて…消えた。




