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界渡りの物語  作者: 九重
33/111

谷間の村 11

―――翠子は、呆然としていた。


自分が、今したことが信じられない。


天には、いまだ力の余波が漂い、雲は渦巻き、空気は光を含んで荒れ狂っている。

雷鳴が轟く。


(もし、あのままあの男とハヌに向かって攻撃していたら…)


一瞬の内に全てを消滅させ、目の前の山や大地も吹き飛ばしていただろう。




体が、ガクガクと震えた。


なのに…


(熱い…)


翠子の体内には、まだ使いきれなかった力が残って暴れ狂っていた。


(…怖い。)


誰より何より、自分の中のこの力が、怖い。

これを何とかしなくては、自分が再び何をするかわからないと翠子は思った。




目のはしに、力の余波を食らって倒れたセタが、身動(みじろ)ぐ姿が映る。


途端に体の奥から湧き上がる圧倒的な怒りを感じた。


(イヤ!)


そう思う。


(消えて!)


咄嗟に願った。




その途端、セタとハヌ達全てがその場から…かき消えた。


翠子は自分の体内で僅かな力が動いたのを感じる。

セタやハヌ達を此処ではないどこか別の場所に一瞬で移動させたのだということが分かった。



それだけの力を使っても、まだ翠子の中には力がうねっている。



(足りない。)



翠子はそう思った。





体の中に渦巻く力は、出口を求めて暴れている。


しかし、元凶であるセタがいなくなったせいなのか、力は全てを傷つけようというような凶暴さを無くしていた。


完璧に純粋な力の塊。


それが自分の中にあるのを感じる。




力に促され、首を回した翠子の視界に重なりあって倒れている血まみれの老人と子供が見えた。


子供…キサの小さな手がピクリと動く。




翠子は、体の内側から力が自然に温かく溢れ出すのを感じた。




―――キサと老人の傷がみるみるふさがっていく。


翠子の中の力は、2人に注がれ―――


2人の命を救い―――


全てを完全な状態に治したのだった。


(…おじいさんの足もきっと治っている。)


翠子は、確信すると同時に泣きたくなった。



(どこの神様よ。)



―――セタの言う通りだったのだと、否応なしにわかってしまう。


全てを破壊する力。

一瞬で多くのモノを移動する力。

死にかけた…いやひょっとしたら死んでいたかもしれない命を助け癒す力。


―――その全てを軽々と振るう存在。



(…化け物だわ。)



そんな存在が“危険”でないはずがなかった。

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