32/111
谷間の村 10
竜の頭が、ビクリと震える。
セタの方に向けられていた口が―――天に向けられた。
爆発したような光が天を突く。
轟音が周囲を圧して、煌めく光柱がその場に立った。
圧倒的な破滅の力を持つ信じられぬ程に美しい爆光。
暴風が吹き荒れる。
それは神の領域の力だった。
余りの迫力に全ての者が、動きを止める。
その中で唯1人夢中で走って来る人がいた。
「アキ!」
ヤトである。
狩りに行っていたヤトは、村の長老が極秘裏に発したSOSに慌てて戻ってきたのであった。
(間に合わなかったのか!?)
…ヤトは、優しいアキが村人のために力を使う事を恐れていた。
(そんなことをすれば、誰よりもアキが傷つく。)
ヤトにはそれは火を見ることよりも明らかな事だった。
天を焦がす光の柱を見ながら、ヤトはその威力に驚くよりも、なお強い焦りを抱いて走る。
心の中で翠子に早まるな!と強く念じながら―――
 




