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界渡りの物語  作者: 九重
31/111

谷間の村 9

セタの目が物騒に輝き出す。


「ガキが、よくも私に。」


セタの言葉と同時に、伏せていたハヌがバッと跳ね起きた。



「キサ!」



翠子の脇にいた、騎士団長だった老人が咄嗟に飛び出しキサを腕の中に庇う。



「グッッ…!」



ハヌの牙が老人の背に深々と突き立った。


翠子の目の前に真っ赤な血が飛び散る。

血の臭いが鋭くなった翠子の嗅覚に届いた。


翠子は、固まる。


流れる血が他のハヌを刺激し、10頭のハヌ全てが老人と子供に群がり襲いかかった。



「キャアァ〜ッ!」



キサの母だろう悲鳴が、翠子の背後からあがる。




セタは、この事態にクスクスと笑い出した。


「身の程知らずに私にはむかうからだ。」


冷たい言葉が悲惨な事態に投げつけられる。




翠子の心臓は、大きく脈打った。




…翠子は、その後何度思い返しても自分がこの段階でどうしてそんな事ができたのか分からなかった。

ただ、翠子に有ったのは、未だかつて感じたことも無い程の物凄い怒りと、どうしても止めなければならないという明確な意志だけだ。




「止めなさい!」




翠子が、―――竜が吼える。


ハヌが驚いたように動きを止め、あっという間に退(しりぞ)いた。

キュゥ〜ンと情けない声を上げて、遠くで伏せる。


セタは、自分の命令もないのに獲物から離れ、竜の前にひれ伏すハヌにひどく驚いた。

このハヌたちは、セタが生まれた時からしつけて、決してセタに逆らわぬように育て上げたモノだ。例え殺されたとしてもセタ以外には従わぬはずの存在だった。


そんなハヌが、セタのことなど忘れたかのように縮こまり震えている。


有り得ない光景だった。





一方翠子は、そんなハヌの様子など目に入らなかった。


ハヌが退いた後には血塗れの子供と老人の体が転がる。

ピクリとも動かぬその姿に、翠子の感情は限界まで振り切れた。



「絶対、許さない!」



低く唸る竜の声が空気を凍らせる。


空間がビリビリと震え、急激にわいた雲で空があっという間に暗くなった。


風が吹き荒れる。


翠子の体からドス黒いオーラが立ち上った。


爛々と輝く黒曜石の瞳がセタを射抜く。


セタは、その目に自分の全てが否応なしに捩じ伏せられるのを感じた。


圧倒的な力の違い。


比べる事すらおこがましいようなその強さ。


怒りで煌めく黒く巨大な竜の姿を、セタは恐怖に縛られながら心底美しいと思った。




翠子の口が大きく開けられる。


その口の中に眩しい程の光が生まれた。


みるみる光が一点に収束されていく。


光の持つ巨大な力が、わかる。




セタは、自分の方に向くその光から目を逸らせなかった。


当たれば自分のみならず周囲の全てを滅ぼすだろう光に魅入る。…魅入ってしまう。




竜の視線はセタを見ていた。


その事に、セタはある種恍惚感に似たような痺れを感じる。


光が放たれる!と思った瞬間。




「アキ!!!」




大きな声が周囲に響いた。

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