谷間の村 8
「これだから反逆者の子供は。先刻から聞いていれば、そんなに馴れ馴れしい口をきいて。あなたの態度が竜様のお気に障れば、人類全体が滅亡するかもしれないのですよ。やはりこんな村に竜様に居ていただくわけにいきません。」
心底忌々しそうにセタは吐き捨てる。
「アキはそんな奴じゃない!」
キサは怒鳴った。
「お名前を呼び捨てにしている時点で犯罪です。」
セタの言葉に翠子の顔は引き攣る。
(そんなわけないでしょう?!)
「私は人類滅亡とかそんなひどい事しないわよ。」
慌てて言い募る。
「今のあなたにその意思がなくとも、いつ心変わりをされるかわかりません。要は、あなたは人にとってたいへん危険な存在なのです。」
…セタの方が余程酷い言い様だと翠子は思った。
(地味に傷つく。)
しかし当然セタには、そんな自覚は無いだろう。
竜が人にとって危険だということは明らかな事実だ。
むしろそれをセタが認める事は同時にセタが翠子の力を認める事になる。
セタは、翠子を褒め称えているつもりでさえいるのかもしれなかった。
「竜様。どうか私の招きに応じてください。この村などとは比べ物にならない最高のおもてなしをお約束します。」
セタは深く頭を下げた。
「うるさいっ、お前なんか帰れ!」
セタのその態度に、ついに切れたキサが怒鳴って前へ出る。
そこまでだけなら良かったのだろうが、感情が高ぶったキサは、あろうことか足下にあった石をセタに向かって投げつけた。
(!)
翠子は焦る。
しかし幸いな事に、子供の投げたようなものには威力がなく、その石は1メートルも飛ばずにトントンと地面に転がった。
咄嗟にキサを止めることができなかった翠子はホッと息を吐く。
しかし、その翠子の安堵は少し早過ぎたようだった。
 




