谷間の村 6
「今の王など王ではない!王の信頼を裏切って玉座を奪った簒奪者だ。お前達もその裏切者に尻尾を振る仲間だ。反逆者と呼ばれるのはお前達の方だろう。・・・セタ!よくも貴様その顔を私の前に出せたものだな。」
忌々しそうに怒鳴るのは村の長老と呼ばれる老人達の1人だった。元気はあるのだが足が悪く今日のような狩りの時はいつも留守をしている老人だ。
昔の戦いで負った傷なのだと、少し悲しそうに笑ってヤトが教えてくれた。
セタは老人を見て、わざとらしく目を見開く。丁重に頭を下げて見せた。
「これはこれは、騎士団長殿。お久しぶりです。お元気そうなご様子で何よりです。・・・相も変わらず負け犬の遠吠えですか。」
セタは、フッと鼻で笑って見せた。
騎士団長と呼ばれた老人はギリギリと歯噛みをする。
(え?騎士団長って、このおじいさんが?)
翠子の思考は混乱する。
混乱しながらも、それでも何となく事情はみてとる事ができた。
…この村は、いわゆる日本で言うところの平家の隠れ里みたいなものなのだろう。
(戦で負けた人達がこっそり住んでいる所よね。)
しかも会話から聞けば、この国では前の王に対するクーデターが起こって、この村は負けた王様サイドの村のようだった。
(それって、今の状況がめちゃくちゃヤバいって事じゃない?)
翠子の背中に冷や汗が流れおちた。
こんな山奥まで逃れてせっかく平和に暮らしていたのに、それがバレたということである。
しかも、この目の前の男は、翠子に対して”やっと見つけた”と言ったのだ。
(え?えっ、私のせい?)
どうやらそうとしか思えなかった。




