谷間の村 5
犬みたいで、猫に似ていて、ちょっと見には狸に見えて、顔が尖っていて耳がピンとしていて目が大きな尻尾がフサッとしている、灰色の獣。
(ハヌ…)
しかもそのハヌは10頭ばかりの群れをなし、その群れを従える人間と一緒だった。
「やっと見つけた。」
茶色の髪に琥珀色の瞳をしたその男が、満足そうに笑う。
「みんな、私の後ろに!」
翠子の鋭い叫びに、村に残っていた全員が翠子の背後に集まった。
最悪なことに今この村には狩りに行けない女子供と年寄りしかいないのだ。
「困りましたね。そんなに警戒しないでいただけませんか。」
男が苦笑を浮かべて近づいて来る。
翠子は男をおもいっきり睨んだ。
「先ずは、はじめまして。至高の存在たる竜様。私はこの国の王に仕える騎士セタと申します。」
男が丁寧に茶色い頭を下げる。
男の周囲に集まったハヌが男の動きにあわせるかのようにペタリと地に伏せた。
その様子に、翠子はぞっとする。
訓練されたハヌを手足の様に使うこの男に油断をしてはいけないと思った。
返す言葉を捜す翠子の間をついて、キサが叫ぶ。
「王の犬!」
嫌悪感いっぱいにキサが吐き捨てた言葉を聞いて、男は不機嫌そうに顔をしかめた。
「反逆者の村に育った子供は、躾がなっていないと見える。」
男、セタは酷薄そうに唇を歪める。
その冷たい視線に、キサは慌てて翠子の影に隠れた。
「・・・反逆者の村?」
一方翠子は、耳に飛び込んできた言葉に大きく瞳を見開いた。
セタがニコリと笑い、得たりとばかりに身を乗り出してくる。
「そうです。この村は現王に背き逃れた者の“隠れ里”です。」
それは、はじめて聞く話だった。




