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界渡りの物語  作者: 九重
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谷間の村 4

その日ヤトは村の男達と狩りに出かけていた。


翠子・・・竜が居ることで、村には期せずして危険な動物が近づかないという特典がもたらされるのだが、しかしそれは同時に食料になる動物も村には近づかないということでもあった。

この為、ヤトは率先して村の男達が行う狩りに参加しているのである。


「ごめんなさい。」


そう言って謝った翠子に、ヤトは気にするなと言ってくれる。


村の子供であるキサも、大人達が遠くまで狩に出かけることの手間よりも危険な動物が村に近づかない方がずっとイイと言って笑ってくれた。


なんとキサの弟は、昨年山の幸が少なかった時季に村を襲った大型の獣の犠牲になったのだそうだった。

いつも明るいキサの哀しい過去に、翠子は驚く。


「アキのおかげで今年は、弟を殺した獣を見かけないんだ。」


キサはそう言うと本当に嬉しそうに笑う。

他の子達も怖い獣を警戒せずに遊んだり水汲みや薪拾いなどの仕事ができる事は凄く嬉しいのだと口々に翠子に言ってくれた。


子供達の優しさが翠子はとても嬉しい。


そして更に嬉しい事に、そんなキサや子供達の態度は、最近ようやく慣れてきてくれた村の女達にも共通のものだった。


翠子の怖ろしい外見に、最初はなかなか近寄ってくれなかった女性達も、ある日子供達の何気ない一言から翠子が自分達と同じ女性なのだと知ってからは、徐々に態度が軟化しつつある。


何よりキサの母親のように以前我が子を害獣などにより喪った経験を持つ者は、翠子の存在そのもので村が守られるという事実に深く感謝した。


「ずっとこの村に居ろよ、アキ。」


生意気なキサの言葉に、翠子は大きな目を瞬く。


「そうね。居ていただけると助かりますわ。竜様。」


キサの母親が優しく笑う。その笑みはなんだか、翠子の母親の笑みに似ていた。


翠子は、こぼれそうな涙にパチパチと瞬きを繰り返す。



そんな幸せが続くと信じていたその日…翠子は見覚えのある四つ足の獣を見たのだった。

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