谷間の村 1
「アキ〜!乗せて。」
子供達が、わらわらと巨大な竜に駆け寄って来る。
「お手伝い終わったの?」
「うん!俺、芋の皮むき10個もしたよ。」
「私はお風呂掃除。つっかれたぁ。」
我も我もと子供達は、竜に申告する。
「そっか、みんな頑張ったね。乗っても良いよ。」
竜は子供達の前に、黒く大きな翼を差し伸べた。
自分の山のような巨体をよじ登り、キャァキャァと歓声を上げながら滑り降りる子供達を、翠子は温かな目で眺める。
翠子とヤトは、ヤトの知り合いが居るという深い谷間の村にお世話になっていた。
世間から断絶されたようなこの村は、自給自足の小さな村で、ひっそりと隠れるように存在している。
全員合わせても50人程の小さな村に、夜陰に紛れたヤトと翠子が現れた時の騒ぎを思い出し、翠子は複雑な心境になった。
(悪い人たちじゃなかったんだけど…)
男達の全てが武器を持って飛び出てきた時は、正直翠子はびびった。
「イヤァ〜、ごめんなさい!」
訳もわからず焦って、人間に対して平謝りに謝る竜など前代未聞だろう。
そんな翠子を苦笑しながらヤトが宥める。
「大丈夫だ。アキ。」
「!?…そのお声は、ヤト様!」
一番前にいた男が叫んだ。
(ヤト様?)
翠子は目を見張る。
「ヤト様、これはいったい?」
竜に警戒しつつ男が近づいてくる。
その男の前に、ヤトはひらりと翠子の背から飛び降りて見せた。
全員が目を丸くする。
「ああ。事情はこれから説明する。とりあえず武器をしまえ。アキが怯えるだろう。」
「怯える…誰が?」
男達はポカンと口を開けた。
「アキ…彼女のことだ。こう見えてアキは繊細なんだ。」
庇われて嬉しそうに擦り寄る翠子の首を、優しく撫でるヤトに皆が驚いていた。




