飛翔 4
慌てて空中停止して翠子は、長い首を背中に回す。
ヤトは、真っ青な顔で今にも死にそうになっていた。
当然だろう。急速な上昇は、物凄い重力と急激な気圧変化を伴うのだ。
ヤトがまだ生きていて声が出せた事の方が奇跡だった。
「ヤト!ヤト!死んじゃいやぁ〜っ!」
「…勝手に、殺すな。」
途切れ途切れに聞こえてきた、それでもしっかりとした声に、翠子は目を見開く。
「うそっ!?ホント?本当に生きている?」
ヤトは微かに苦笑した。
「ああ。お前のおかげだ。お前は上昇する時、無意識に自分の体の周りに空気の層を作ったんだろう。自分を守るためなのだろうが、それが俺も守ってくれたんだ。」
翠子が上昇すると同時に、ヤトは自分達の周囲の空気が動かなくなり、その外側と内側との間に見えない壁のようなものができた事に気がついた。
とはいえ、それはあくまで丈夫な竜の体を守るレベルの空気の壁であり、ヤトもノーダメージというわけにはいかなかったのだが、それでもそれはヤトの命を守る役目を果たしたのだった。
「…良かったぁ。」
翠子は心から安堵の息を吐く。
大きな口からゴォ〜ッ!とスゴイ勢いで空気が吐き出された。
その突風のような息が、たまらなく愛しいと思えるヤトだった。




