20/111
飛翔 3
空気がざわざわと蠢いた。
体が今までで一番高く浮き上がる。
翼の下に風を抑え、翠子はそれが自分の意のままになるモノなのだと不意に理解した。
ソレは自分の翼も同然だった。
無意識に羽が動き、風が従う。
当然の事だ。
グン!と羽を伸ばす。
風が翠子の体から大きく広がった。
嵐のような突風が巻き起こる。
その風に翠子は楽々乗った。
ほんの一閃、翼を羽ばたかせる事で、翠子の体は空高く舞い上がる。
何の力も要らなかった。
たった今まで翠子の周りで、翠子の巨体を隠していた深い森が小さくなる。
湖は青い点にしか見えなかった。
(クフフ…)
自然に笑いが込み上げてくる。
大声で笑おうと思った時…
「アキ…」
風の中に息も絶え絶えな微かな声を拾った。
「え?あ!あぁっ!…ヤト!」
…忘れていた。




