7章 会話
「あ、いたいた。 リグルちゃーん」
「はい! どうでしたか?」
「学園長が会ってくれるって、きっと通えるようになるわよ! さぁ、案内するからついてきて」
彼女の後ろを歩いてついていく。
入口を進んで左右に分かれている道の右へ進む。
2分ほど歩くと校長室を書いてあるプレートを貼った部屋が見えた。
受付の人はノックをした。
「アルデミランです。リグルちゃんを連れてきました。」
「リグルだけ入れ」
「……私だけ?」
「そうみたいね。 大丈夫よ、優しい人だから。 質問に答えるだけでいいからね」
その気遣ってくれる様子にとっても不安だけど彼女のことはリグルは信用しようという気になった。
「失礼します」
扉を開けて中に入ると待っていたのは壮年の男性だった。
「お前がリグルか」
「はい、リグルです。今年で10歳になりました。」
言葉使いが悪かったのか校長の片眉がぴくりと跳ねる。
「そうか、10歳か……あぁ、すまない。私の名前はレイゲン・ハルト。
レイゲン校長と読んでくれて構わない」
(幼いな。もしかしたらと思ったがこれでは本を開いてはいまい。確実に食われている。)
そんなことはおくびにも出さず、
それで、と話を続ける。
「ではリグル・サーティスと呼べばいいのか?アイウィンと読んだほうがいいのか?」
「……?私はリグル・サーティスです」
「そうか……アイウィンという名前に心当たりは?」
「ありません。」
「ではリゲルという名前には?」
「……いえ、ありません。あの、その人がどうかしたんでしょうか?」
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
(忘れているか。 本当に消し去るとは可哀想なことをする……)
「ここに来るまではどうやって暮らしていた?」
リグルはアルデミランの言うとおり言われたことに答えていく。
「家族と一緒に暮らしていました」
「家族は?」
「お爺ちゃんと二人暮らしです」
「ふむ。叔父の名前は?」
「カートゥンお爺ちゃんです」
「そうか。どんな男だった?」
(ハッ、カートゥンか。昔あいつが使ってた偽名じゃないか。)
「えと……ん。あれ?うーん……」
「どうした?」
「その、名前しか思い出せないんです。髪の色も声も」
「なんとか思い出せないか」
「うーん……イタッ」
リグルにズキリと頭を鋭い痛みが走る。
しかし、それも一瞬のことだ。
また思い出せないかと記憶を探るがどうしても思い出せなかった。
「い……いや、思い出せないなら無理に思い出さなくてもいい。いや、結構だ。
次の質問に移る。」
慌てたような校長の声に記憶の海から引き上げられる。
「すみません。」
「いや、いいんだ。それよりここにはどうやって?」
「ガーランさんという商人の人の馬車に乗せてもらいました。」
「ここら辺でガーランって名前の商人はガーラン商会の首領しかいないな。 運が良かったな、あいつは子供好きだ」
「はい。 道中も良くしてくれました」
「ふむ……あぁ、もういいよ。 明日からこの学園に通ってもらう。
お金は心配しなくていい。 手紙の主は私の古くからの友人でね。
彼にお願いされては断れないのだよ」
「あ、ありがとうございます!
失礼しました!」
彼女はそう言って扉を閉めた。
「はぁ……あの様子では全く気付いていなかったみたいだな。
無意識というのも恐ろしい」
彼がリグルに叔父の話を深く聞こうとしたときリグルの首から
するりと一本の鎌が出てきた。
「昔、死ぬほど見たから間違いない。マンティスの魔鎌……本当に全部移植していたのか……何かの間違いであって欲しかったが……」
マンティス。リゲルが学生時代のときから扱っていたカマキリの魔物だ。
アレが振る鎌は時には認識の外から迫ってくる恐ろしいものだ。
なにしろ体内にいるアレはいかなる場所からでも鎌を生やしてくる。
後ろから不意打ちしようとすれば背中から何の兆しもなく生えてくる。
さらにはその速度もバカにできない。
回避しろというのが無理な話だ。
今回の鎌は確実に俺を狙っていたと見て間違いないだろう。
攻撃しなかったのは警告のつもりなのか、それともリグルを思ってのことか。
なぜそこまでしてリゲルは自分のことをバラされたくないのか。
それは俺でもわからないが、ズレてるあいつのことだ。きっと何かあるんだろう。
深い溜息を一つつくと、今度はリグルをどこに入れようか悩むのであった。