3章 中身
夢を見ていた。
水の中に入っているような。風の中を泳いでいるような。火の中を歩いているような。
土の中を潜っているような不思議な感覚だった。
そこでは私は何でも出来た。
速く走ることもできたし、空を飛ぶ事もできた。
そしていろんなことを試しているうちに何かが私を見ているのに気づいた。
その視線から感じるのは優しい気持ちだけで、私は見守られているのだと嬉しくなった。
だって、私を見守ってくれるのは私の家族の……家族の誰だっけ。
私は水の中で、風の中で、火の中で、土の中で考えた。
そうしているとふと気がつく。
私を見ているのはひとりじゃない。
たくさんの気配が周りからした。
でも、怖くはなかった。
知らないはずなのになぜか知っているような気がした。
「誰かいるの?」
その声には誰も答えない。
「誰か見てるの?」
その声は誰にも届かない。
私は探して走り回った。空だって飛んだし、海だって泳いだ。
それでも誰も見つからなかった。
私は寂しくなった。
いつもは…がいてくれたのに。
…って誰だっけ。とても大切な人だったようなきがする。
腰掛けやすそうな岩を見つけてそこに座ると私はうんうんと考え込んだ。
私の大切な人って誰だろう。家族だろうか。親戚だろうか。
私を見てるのは誰だろう。家族だろうか。親戚だろうか。
考えて考えて考えて。
「だめだー。思い出せない。」
草原に身を投げ出した。
大切な人のはずなのに思い出せなかった。
それなのになぜか悲しくはなかった。
「なんでだろう……あ!そうだ!私には家族がいるんだ!」
…が今日プレゼントしてくれたんだ!
じゃあこの優しい気配はきっと家族だ!
そう思って辺りを見回してみても一人として見えなかった。
もっと、気配を探ってみる。
「うーん。近い、近いんだけどなぁ。」
まるでかくれんぼのようだった。
じっと、変わらない優しい気配がまるで私を見つけてご覧と言っているかのようだった。
気配をすると思う方へ進もうとすると、どこにいってもずっとおんなじ状態だ。
もしかして一緒に移動してるのかな?
そう思って走りながら辺りを見渡す。
それでも何もいない。でも気配はする。
ふと下を見下ろした。
なんだか体がおかしい。
近くにあった湖に顔を写した。
水面は波紋一つなく、はっきりと顔を写す。
「なに……これ……」
自分の目が緑色から赤色に変わり
髪は真っ白になっていた。
急に怖くなった。
自分が自分でなくなっていっているように感じた。
足を写してみた、獣の足になっていた。
手を写してみた、鉤爪がついていた。
背を写してみた。翼が生えていた。
右腕を写してみた。白い毛で覆われていた。
左腕を写してみた。ウロコで覆われていた。
「あぁ……あぁあああああ!あぁあぁあああぁぁあああああ!!!!」
私の頬を掴む手は柔らかいのに水鏡に映るその姿はあまりにもおぞましかった。
「いやぁあああ!いやぁああああぁあぁあぁあああ!」
その見ることすら憚られるであろう容姿に恐怖心を抱いた私はあの優しい気配を探した。
「どこ!?見てるんでしょ!? 助けて! 助けてっ!」
叫んでみても誰も来ない。
あまりの恐怖に吐き気がする。
私は吐こうとして湖に身を乗り出した。
水鏡にはおぞましい姿が写っていて、
さらに胸のその下。
お腹にはたくさんの目と口がついていた。
その目たちからは優しい気配が、その口には微笑みが浮かんでいた。
唐突に理解した。
彼らはずっと自分の内側から私を見ていたのだと!
彼らの口がゆっくりと動いた。
【ミ ツ カ ッ タ?】
「――――ッッ!!!」
それに気づいた私は声にならない悲鳴をあげて。
そのまま気を失った。