2章 誕生日プレゼント
リグルは準備を終えると、居間に戻った。
「お爺ちゃん。 準備終わったよ」
「おぉ、そうか。では行こうかの」
「うん!」
今は既に片付けられており、リゲルも左手にハンドバックを持っていた。
昔から準備が以上に早い祖父である。
扉を開ければまだ早朝ということもあってか街にはチラホラとしか人はいなかった。
あと1時間もすれば人も増えるだろう。
「さぁ、リグル。 こっちだ。 ついておいで」
そう言うとリゲルはリグルの手を掴んで歩き出した。
「どこに行くの?」
「家族の場所だよ」
「どんな家族?」
「そうだなぁ。 賑やかな奴もいれば静かな奴もいるし、喧嘩っ早い奴もいる。
だけど、全員が全員、お前を想っているやつらだよ。」
「……! えへへ、そんなに一杯いるんだ!楽しみだなぁ」
「そうじゃのぅ。 今日から大家族じゃ!」
そんな会話をしているとぶちりという音のあとにドサという音が聞こえた。
「……?」
どこで起きた音かとあたりと見ると、リゲルのバッグの握っていた部分がちぎれていた。
どうやら、バッグを落としてしまったらしい。
リゲルは左の手のひらをジッと見つめ。
リグルの視線に気づくと、
「あぁ、すまない。取っ手が壊れてしまったようだ」
そう言って朗らかに笑った。
「そっか。 じゃあ帰ったら直してあげるね!」
「ほっほっほ、リグルは優しいのぅ。 将来いいお嫁さんに……お嫁さんに……」ホロリ
「だから泣かないで―! 私お嫁さんになんかいかないもん!」
「それなら安心じゃな! それ、行くぞー!」
バッグを左の手で抱えるとリゲルはリグルの手を引っ張って走りだした。
それはリグルの全速力には到底及ばないものだったが、
リグルもまた楽しそうに一緒に走っていた。
しばらく―30分ほどだろうか―走ったり歩いたりを繰り返して二人は
街の外れの森の中へ来ていた。
木漏れ日が少し眩しく、
もう少し日が照ってくればお昼寝するにもいいだろう。
いまは朝露に濡れてしまっているが。
二人はもう少し進み、木漏れ日すら通らない森の奥へと入っていった。
そこでリゲルは
「このあたりでいいじゃろう」
と呟き、なにやらぶつぶつ唱えだした。
それが終わると
「リグル、そこで動くんじゃないぞ」
と言った。
その言葉に従いリグルはその場でじっとしていた。
リゲルはバッグの中に入っていた
透明な液体と赤い液体をリグルの周りに円を書くように撒き、
そのあとに自分の周りにも撒いた。
ここに来てリグルは祖父の様子が少しおかしいことに気づいた。
何かに追われているような、焦っているような感じだ。
「お爺ちゃん?」
気になって話しかけてみるが祖父本を片手に
「マンティス……スタッグ……ドラゴン……ファイアフライ……スパイダー……ウルフ」
とブツブツとつぶやくだけで
すでにリグルの方を見ようともしていなかった。
いつもとは決定的に何かが違っていたが、リグルは動くなと言われていたので、
そこを動くこともできなかった。
彼女は祖父の言葉を心から信じるほど彼のことを信頼していたのだ。
たとえ様子がおかしくても。
しばらくブツブツと喋っていたリゲルだったが、終わったのかぴたっと言葉を止めると。
「リグル。 またせたのぅ。 お前に家族をあげよう。」
そこにはいつもと変わらない祖父がいた。
「ホント!?」
「あぁ。 今までさみしい思いをさせてしまったからな。 たくさんおるぞ!」
ばっと両手を広げる祖父は何かに解放されたかのように晴れやかだ。
「ありがとう! ……でもどこにいるの?」
まだ動いていいと言われていないリグルはあたりとその場でキョロキョロと見回した。
「すでに周りにおるよ、 リグルにはまだ見えていないみたいじゃがのぅ。 ほっほっほ、
やはりリグルはみんなに愛されておるの」
「え!? 私には見えないの!? お爺ちゃん何とかして!」
「良いぞ、 では、行くぞ。」
リゲルは持っていた本のページをパラパラとめくるとなにやら唱えだした
【女王に集いし者どもよ。 汝らは常に彼女を見守り、時に矛となり時に盾となり、
命尽きようともその身、魂までも彼女に捧げることを誓うか。】
風は吹いていないのに周りの木々がざわめきだした。
「お爺ちゃん……?」
返事はない。
【その身果てようとも彼女の血となり肉となり、全てが終わる時まで糧となることを誓うか!】
周りには何もいないはずなのに様々な気配がする。
「ねぇ、お爺ちゃん、何かいるよ、これが家族?」
リゲルは本から顔を上げた。
【その魂、朽ちようとも彼女の目となり足となり、全てが終わる時まで支えることを誓うか!!】
周りには何もいないはずなのにいろんなところから声が聞こえる。
「ねぇ!お爺ちゃん!」
リゲルは確かにリグルを見ていたが、確実にそれは彼女の知っている叔父ではなかった。
その瞳は虚空を写し、何も見てはいなかった。
【ならば答えを示せ!血となれ!肉となれ!その身が朽ちようとも!その御魂果てようとも!彼女の歩く道しるべとなれ!彼女の歩く道となれ!集え!今こそ虚空にして無限の女王の目覚めである!!】
周りには何もいなかったはずなのに、周りには私と祖父を取り囲んで様々な生き物が集まっていた。
突き刺すような視線は全て私に向けられていて、そのあまりにも濃密な気配に意識がふっと遠のく。
「さぁ、リグル。 お前の家族だよ。」
その言葉はいつも見ていた笑顔で。
それがリグルの聞いた祖父の最後の言葉だった。
リグルとリゲルがわかりにくいね!ごめんね!でもあとほとんど出てこないからね!