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1話 誕生日


朝、小鳥のさえずる音が窓から飛び込み彼女の一日が始まる。


しかしその日の彼女は小鳥たちがさえずる前から起き出し、寝巻きから着替え、髪を整えていた。


「ふんふんふふーん」


なにやらご機嫌な様子で櫛を使ってさっさっと長い緑の髪を梳かしていた。


少しすると木の扉をこんこんこんとノックする音が聞こえ、そのあとに


「おーい、リグルや、入るぞー」


と言う祖父リゲルの声が聞こえてきた。


「あ、お爺ちゃん、いいよー」


そういうとゆっくりと扉が開かれ、そこにはニコニコとした老人が立っていた。


「おや、リグル。今日はいつもより早く起きたんだね。 


いつもは儂が起こしに行かないといつまでも寝ておるのに」


「えへへ、だって今日は特別な日だもん!」


「そうじゃな。 誕生日おめでとうリグル。 今日で10歳じゃな。」


「そうなの! 今年で10歳しかも」


リグルはそこまでいうとにへらと顔を緩ませ


「家族が増えるのです!」


と、元気いっぱいに叫んだ。


「ほっほっほ、リグル、そんなに楽しみだったかね」


「うん!楽しみだった!私の家族だもん!」


「……じぃじもおるんじゃがのぅ……」しくしく


「!? リゲルお爺ちゃんも家族だよ!一番特別な家族」


そういって手に持っていた櫛をおいてリゲルに抱きついた。


「ほっほ、家族と言ってくれるのももうリグルだけじゃな。」ホロリ


「あー!もう!泣かないでよー! ほら!ご飯食べよ!」


リゲルの手をグイグイと引っ張ってリグルは居間へ行った。


「そうじゃな。 ご飯はもうできておるよ。 一緒に食べよう」


朝食は白いパンにたくさんお肉が入ったスープ。それと果実水だった。


「わー! すごい! 白いパンなんて初めて見た!」


「今日はリグルの特別な日じゃからのぅ。 じぃじは頑張って買ってきたのじゃ」


「お爺ちゃんありがとう!」


「ほっほっほ、感謝されるのはいついかなる時も心地よいものじゃの。 さて、話してばかりいるの

もなんじゃから、食べようか」


「うん!」


「「いただきます」」


初めて食べる白いパンはいつもの固くて酸っぱくて黒いパンとは比べ物にならないほど柔らかくて、


スープに入ったお肉は食べるといつもの硬い肉が肉ではないのではないかと思えるほどにあっさり噛

み切れて。


果実水もすっきりしていて美味しかった。


朝からこんなに豪勢なんて初めてのことだ。きっと今日はいいことしかないにちがいない!




食べるのがひと段落するとリゲルは


「リグルや、もう少しゆっくりしたら家族にあわせてあげよう」


「え!?今すぐじゃないの!?」


誕生日プレゼントは毎回朝食のあとすぐ渡されていたから今回もそうだと思っていたようだ。


「じぃじくらいの年になると食べたあとすぐに動けなくてのぅ。 


もう少し待っててくれんか」


「……うん! わかった!」


「リグルはいい子じゃのう。 


家族に会いにいくためにちょっとだけ遠くへ行くから旅の準備をしておきなさい。」


「はーい!」


リグルはそう言ってまた自分の部屋へと戻っていった。


「リグルはいい子に育ったのぅ。 


今日であの子も10歳。 もう抑えておけそうにないのぅ。


リグル、お前の成長をいつまでも見守っていたかったがそれもむりそうじゃな。」


リゲルは食事の間ずっと見せないようにしてきた左の手のひらを見る。


そこには真っ黒な黒い10センチほどの大きさのシミがついており、


リゲルはそれを愛おしそうになでた。


「もうすぐ、家族を作ってやるからな……」


それは老人の独白にも見えたし、最後の言葉でもあるように思えた。



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