16 お話
「(いや、しかし驚いたな。僕が飲まれるところだった……)」
目の前でにこやかに喋っている少女。名前はリグルというらしい。
彼女の目を見た瞬間に僕の中の獣が一斉に警鐘を鳴らし唸りだした。
いや、唸ることすら出来ない奴すらいた。
それも仕方ないと言える。
あのあらゆるものをごちゃまぜにしたようなおぞましい気配。
自分が各下だと無理やり頭を押さえつけられる感覚。
一瞬で察した。彼女が殺意を僕に抱けば理解するまもなく塵と変えられてしまうことを。
僕の中の魔導書、【獅子心王】から勇み足の奴らが飛び出さないように必死に押さえつけ接触を図った。
恐ろしいが、彼女は少女だ。困っているようだし、助けなければ僕の流儀に反する。
結果として良い子だとわかって良かった。
こんな子をずっと恐ろしいものだと思っていたくないからね。
「リグルは本はもう開いたのかな?」
「いえ、まだなんです。」
そういって落ち込む姿は年相応の少女のものだ。
「そっか。でも大丈夫だよ。どんな人にだって本はある。時間はかかるかもしれないけどきっと開くよ。」
「はい……あの、ハルさんの本はどういう本なんですか?」
「僕の本?僕の本はこれさ。タイトルは【獅子心王】。」
勝手に出るなよ。と中の奴らに一喝し、取り出す。
何かの革で装丁された一見シンプルな本だ。
「へぇ……!綺麗な本ですね!どんな本なんですか?」
「そう言ってくれると嬉しいな。この本はね。」
とりあえず無害なやつを召喚する。
バラバラと勝手に開きページがめくれ、一匹の鳥が丁寧に描写されているページが現れる。
「【凪零】。」
そう言うと本がかすかに光り、その場に描かれていた鳥が現れる。
「こういうふうに動物を召喚できる本なんだ。」
「わぁ!すごいですね!私もそういう本だといいなぁ」
「そう言ってくれると嬉しいな。」
多分君もそうだと思うけどね。
無意識にこれほどの気配を潜ませているとなると本が開く前に既に本の中にいるのか果たして。
好奇心の強い凪零はチチチと鳴くとリグルの肩に飛び乗った。
「ッ!」
一瞬、一瞬だけ殺意にも似た気配が叩きつけられたがすぐに霧散する。
「わぁ!可愛いですね!」
「そ、そう言ってくれると嬉しいよ。」
これは凪零が接触したから反応したということだろうか。
誰か指導しないと本を開く前に死人が出そうだ……。
なるほど、冒険科に入ったのはそのせいだね。
本、魔導書はその名のとおり魔を導くための本だ。
これがなければ召喚系は意思疎通ができないし、召喚もできない。
彼女の場合は召喚できないかどうかは知らないが、あの気配は今にも飛び出してきそうだった。
だとしたら現れるのは意思疎通が出来ない化物。
魔物と言っても過言ではない。
使い魔とすら呼べない暴力の塊が召喚されてしまう。
早急に本を開かせないと僕が危ない。
接触したのは早まったかと冷や汗が止まらない。
そんなこんなで会話を続けているとチャイムが鳴り出す。
周りと見れば人も随分増えてきた。
おや?
「やぁ、スモーカー。おはよう。」
「あぁ。」
彼も来たみたいだ。
唯一の僕の親友、スモーキー・スモーカーだ。
赤い髪を掻揚げ、だるそうに登校してくるのは彼しかいない。
「今日は早いね。」
「ガキのお守りを言われてな。リグルってんだが。知ってるか?」
「リグル?それなら彼女だよ。」
「こいつが……?」
「は、はい。リグルです。」
「今日からお前に付き添うことになったスモーカーだ。まぁ、よろしく。」
「え?あ、はい。よろしくお願いします。」
会話は終えたと判断したのかスモーキーはタバコを取り出すと火をつけた。
ってちょっと。
「スモーキー。タバコはここでは禁止されているはずだよ。」
「あぁ?あぁ。昨日許可が下りた。そこのガキのお守りする代わりにな。最初は簡単な話だと乗ったが今は後悔してる。確かに吸わなきゃやってらんねぇわな。いつ死ぬか分かんねぇし。」
そう言うと彼はタバコを吸い始めた。
「リグルちゃんは大丈夫?タバコ。」
彼女程の年だとまだタバコの臭いは辛かったりするはずだ。
「あ、いえ、大丈夫みたいです。」
「そっか。それは良かった。」
ほっと一息着いた時に教官が入ってきた。
「それじゃあ授業はじめっぞー。席に付けー。」




