序章 運命の分かれ道
幼い頃から大人たちが本を持っているのが気になっていた。
その本は時には抱えられ、ときは浮いたり(!)しながら彼らのそばをけしてはなれなかった。
そのことを祖父に話してみたら。
「その本たちはその人にとってかけがえのない物なんだ。 一番の友人と言っても過言ではないし、
家族とも言えるかもしれん。」
家族、私にはないものだ。
祖父が拾ってくれたということは教えられていたため
私は生涯家族と呼べるものがいないのではないかと思っていたのだ。
お爺ちゃんも持ってるの?
そう聞けば
「あぁ、私も持っていた。今はもう長い眠りについているがね」
「家族。私も欲しい」
そう言うと、祖父はしばし目を細め、長い顎鬚をさすると。
「私では不満かね?」
と、がっかりしたような声を出した。
「違うの、私は血の繋がった家族が欲しい。」
慌てて弁解した。
その言葉を聞いた祖父は目を少し見開くと。
「それじゃあ次のお前の誕生日には家族を用意してあげよう」
そう言ってくれた。
その言葉が嬉しくて嬉しくて、
家族を用意するなんておかしな言葉だったけどその時の彼女は気がつかなかった。
それが、彼女が人という道から外れた瞬間だった。