プロローグ~汐 1周目~
プロローグであり、主人公、汐にとって全ての始まりの話。
全話、基本的に汐視点です。
いつからだったろう。
新しいクラスメイトに、定期テストに、友人との会話に、恋をする幼馴染に、既視感を覚えるようになったのは。
「…おかしい」
小さく呟いた言葉は、幸いにもクラス発表を見ている生徒たちには届かなかったらしい。
私は、少し前に3年生になるにあたって、というプリントをカバンに突っ込んだはずだ。
でも、私の名前―佐藤汐―は2年C組という欄にある。
…やりなおしている、のだろうか。
そんなSF小説のようなことが実際に起こり得るのか?
「…痛いし」
頬をつねってみても、痛みはある。現実だ。
とりあえず、同じように、でも少し変えて過ごしてみよう。
…日記でも買ってつけてみるか…。
「おはよー、汐」
「万代。おはよ」
中学の時からの親友、相須万代。
彼女は1年生の時から演劇部で活発だ。そして私の癒しだ。
「今年はすっごいクラスだよ、みた?」
「…いや…特には…」
「もー!幼馴染の灯桜君も一緒なんだよ?」
それは知ってる。
「あとは剣道部の河桐君。クールなんだけど意外と親切なんだよね」
「…あぁ…そういえば、備品運び手伝ってくれたんだっけ?」
「そうそう!あの嫌味生徒会長とは大違い!」
万代…そんなに大きな声を出すと…。
「…僕が…何だって?」
「ぎゃぁああ?!」
肩をギリギリと掴まれる万代。
掴んでいるのは、生徒会長である地萩橙貴先輩。
万代のイトコだそうで、こんなことしてるけど仲は良いと思う。
…あれ?
万代と違う人と一緒にいる記憶があるんだけど…おかしいな。
「佐藤さん、引き続き、このバカ娘をお願いしますね」
「え、あ…はい…」
爽やかに笑って去っていった地萩先輩。
しかし、万代にお世話されているのは私な気がするのだが。
「失礼な…」
「はは。とりあえず、教室行こうか?」
「…ぶぅ」
可愛いな、万代。
2年C組の教室に入ると、まだあまり揃ってなかった。
そりゃそうだ。始業式まではまだ時間がある。
みんなそれぞれ友達と喋ったり、クラスが違ったことを惜しんだり、そういうやりとりをしているのだろう。
…席は決まっていないし、適当に隅っこにでも行くか。
「汐っ、席決まってないなら、こっち…隣、来ない?」
彼が幼馴染の灯桜朱斗。
顔が良い上に運動神経も良い、成績も悪くはない(数学除く)し、女子に優しいから、モテる。
彼自身も女の子は好きみたいで、よく女の子に囲まれているのを見る。
「…遠慮しとく」
「あはは…あっち行こ、汐」
「んー」
万代と一緒に後ろ側の席に座って、しばらくお喋りをしていると、チャイムが鳴って、担任の松葉浅黄先生が入ってくる。
担当教科は数学。
朱斗がよく注意されていた記憶がある。
幼馴染だとバレなくてよかったと、少し薄情になることもあったっけ。
「おはようございます。
実は、このクラスに転校生が入ることになっていますから、
始業式の前に紹介しておきましょうね。どうぞ、入ってきて下さい」
「はい」
鈴を転がしたような可愛らしい声。
低音で声変わり前の男子に間違えられたことのある私とは大違いだ。
「聖風愛です。これからよろしくお願いします」
「聖風愛さんです。自己紹介は後で全員分やるので、この辺にしましょう。空いてる席は…えーと…灯桜君の隣ですから…、聖風さんがあそこに荷物をおいたら移動しましょう。始業式ですよー」
…一年の時から目つけられてたっけ、アイツ。
初めて担任されるのに覚えられてるとか気の毒にな…って自業自得か。
ともあれ。
それから一年間、日記にすべてを記してはみたものの、同じことのくりかえしで、何度も既視感を覚えて、それでも書き記し続けて、3月の終業式のその日。
「…?」
がやがやと騒がしい一団。聖風さんたちだ。
もはや普通になってしまっているけれど、彼女一人に熱い視線を送る学園きってのイケメンたちは私から見れば異様にしかうつらない。
ってオイオイ、松葉先生は教師でしょ。
この状態…無事に4月になって、3年になれればいいな…。