美しい人
「あ〜っ、もう!私の何が悪かったのよ!!」
ジョッキになみなみと注がれたビールを一息に飲み干して、彼女はテーブルに突っ伏した。
彼女の前には3つの大ジョッキが置かれている。つまり4杯目の大ジョッキビール…あきらかに飲み過ぎである。
「ねえ、私って男みたい?」
どうやら、今回もいつもと同じ理由で振られたらしい。
そりゃあ、蟒蛇の如く呑めばなぁ…と思ったが、言わない。
普段の彼女を考えれば、そんなことは無いのだ。
確かにさばけた性格をしていて所謂姉御タイプではあるが、決して男のようだという訳ではない。いつも周りに気を配っていて、他者に細やかに気遣いができる奴である。
容姿も、美人の類に入ると思う。
自毛よりも少し明るく染めた髪は真っ直ぐでサラサラ。今は化粧の下に隠れているが、素っぴんだって見れる顔だ。
何故素顔まで、知っているかというと、彼女と出会ってもう干支が一周している。
男女共に友人が多い彼女だが、何故か失恋すると自分を呑みに誘ってくる。
そして愚痴るだけ愚痴ると「ありがと」と小さく泣き笑いで言う。
アルコールの所為か泣いた所為か、上気した頬に潤んだ目をして一般的な男は、少なからずドキリとすると思う。
「ちょっと!聞いてるの!?」
「ああ、聞いてるよ」
「それでね、オレは女の子と付き合いたいからとか言うのよ」
あたしだって女よと彼女は言う。
「もう、そんな奴忘れてもっとイイやつさがせよ。」
いつものセリフを彼女に言う。
「いるのかなぁ〜」
いつになく彼女が弱気だ。
「いるだろ。捨てる神あれば、拾う神ありっつーし」
ここにいるぞ〜と、冗談めかして言ってみた。
あはは、と彼女は笑う。
「だったらこの十数年で一瞬位色っぽい展開になってるはずよ」
今まで一度も無いじゃない。と更に笑う。
「そりゃ俺が紳士だからだろ」
その言葉をきいてそうねーとスルーされてしまった。
「確かに失恋につけこむとか酔った勢いで…とか無いから紳士よね」
まさかのヘタレ認定されてしまった。己の沽券の為に言うが、弱みにつけ込むなんて自分の主義に反するだけだ。
本当に彼女には危機感が無いらしい。男の本気の力の前には女は適わないというのに。
でも、自分もこのぬるま湯の関係が心地よかったのは事実だ。最後には自分の元に来ることがわかっていたから。
「呑みすぎたな。そろそろ出るか。」
「ん」
だいぶ酒が回っているようだ。
会計を済ませて店を出る。
「ありがと」
甘える様に彼女は言う。
明日君に会いに行くよ。
この関係に終焉を。新しい二人の関係を始めてみないかと。
君はYesと言うだろうか。
否、言わせてやる。
俺の腕の中に入って来たら
――――離しはしない。