それぞれの道
キークとサラ
それは、良く晴れた日のことだった。
「キーク・・・本当に行っちゃうの・・・?サラも・・・?」
ここはコートセイム。ノーアとの戦いを終え、肩を負傷したコオウ達はしばらくこの里に滞在していた。レシュ達 の治療もあり、コオウの傷はすぐに良くなった。
コートセイムに来て2週間。風の便りでサーム国も体制を立て直 し、新王リューイの元で軌道に乗ってきたらしい。
すでに王子コオウのことは伝説となっているそうだ。これを聞 いたとき、コオウは苦笑するにとどめた。
そしてこの日、キークがサラを伴ってユーカ村へ戻ると告げたのだ。
「あぁ、村を再建したいんだ。サラも手伝ってくれるっていうし・・・もう、村へ戻ろうと思う。再建なんてのは 時間がかかるだろ?だから早いとこ取りかかりたいんだよ。」
キークは決まり悪く、こめかみを掻きながら視線をそらす。
「私もね。行く当てもないなぁって言ったらキークが声をかけてくれたのよ。”俺と一緒にユーカ村を再建しない か?”って。その時のキークの顔ったら無かったわ!!」
クスクスと笑いながらサラが言う。
「だーーっ!!そんなこと今、ここで、言わなくたって良いだろ!恥ずかしい!!」
顔を真っ赤にして叫ぶキークにコオウとレイは思わず吹き出した。
「じゃぁ、そのうち時間が出来たらユーカ村に冷やかしに行きましょうか。」
なんとか笑いを納めたレイがぽつりと言った。
「あぁ!是非見に来てくれよな!」
そう言って、キークとサラは笑顔でユーカ村へと立っていった。
荒廃した村を一望できる、あの、光の儀式の丘に二人は立っていた。
ここまではコートセイムからリョクに飛ばし てもらったのだ。
「サラ、ここが俺の故郷、ユーカ村だ。・・・今は何もないけどな。」
隣に立つサラにキークが微笑む。だがサラはキークの方など見ようともしない。視線が一点に釘付けだった。
「キーク・・・あの煙っ!!」
サラが笑顔でキークを振り返り上空を指す。慌ててキークも目をこらすと上空に一筋の煙が立ち上っていた。
その 煙は荒廃を表す煙ではなく、誰かが生活している煙。
村の最奥の方から細く上がるその煙が、人のいることを証明 していた。キークの瞳に涙が溢れる。
仲間が、ユーカ村の仲間の誰かがそこにいる。
キークの瞳から止めどもなく 涙がこぼれた。
「キーク!良かったわね!!ほんとに!良かったね!!何泣いてるのよ!早く行きましょう!!」
そう言うサラの目にも涙が光っている。
「ばかいえ!泣いてなんかねぇよ!あの煙が目に染みたんだよ!!」
笑いながら遠くの煙に向かって二人は駆け出した。
そこに立っていたのは簡素な丸太小屋だった。まだ立ってからそれほど時がたっていないのか、まだ新しさを感じ た。
そしてその小屋のまわりが、少し、ほんの少しだが緑が咲き、畑になっていた。
たどり着いた勢いをそのまま にキークは小屋の戸を叩く。
「誰だ?!」
小屋の中から訝しげに問うその声に、キークは覚えがあった。もう一度、勝負をしようと約束した悪友の声。
キー クは扉が開ききるのを待たず中の人物に抱きついた。
「コーライッ!!!!お前・・・お前生きてたんだなっ!!!」
突然抱きついてきた人物を何とか引きはがし、二年前よりも大人びた悪友の姿を認めたコーライは開いた口がふさ がらない体だった。
「おい、お前、まさか・・・キークっ?!嘘だろ?!な、何で?!何で今更表れんだよ!遅かったじゃねぇ か!!」
そう言ってお互いこれでもかと言うほどに抱き合う。その様子をほほえましくサラは見守っていた。 感動の再会を果たしたコーライにキークはサラを紹介し、コーライの話を聞いた。
コーライは消滅の時、長老の使 いでホートカイキまで買い出しに行っており、難を逃れたのだという。
帰ってくると村は消えており、自分一人の 力でどうなるものではないがとりあえず、生活を始めたのだという。
「それがな、なかなか緑がもどんなくてなぁ・・・。土が死んでやがるんだよ。」
思っていたよりも深刻な村の様子にキークはため息を付く。
出された香花茶を飲みながらサラはふと思い出した。
「キーク!セイヤさんからもらったのは?」
サラの言葉にキークははっとし、ごそごそと懐からペンダントを取り出し、その小さな箱を注意深く開けた。
「「「うわっ!!」」」
中から光がこぼれ空間に文字を描く。
“これを村に埋めなさい。我らからの祝福の種だ。”
光が収まると、箱の中には一粒の種が金色に光り輝いていた。
三人は慌てて外へ飛び出し、手近な土にその種を植 えた。
変化が起こる。
土の色が生き生きとした色となり、芽の周辺から緑が広がる。
程なくして村全体が緑の絨毯に覆われる。
「こ、こんな事って・・・。」
コーライは唖然とするより他はない。キークとサラは遠い地にいるセイヤにありがとうと呟いた。
しばらくの間、 久しぶりに見る故郷の緑に三人は息をのんでいた。
「さぁて。再建の計画でも立てようかね。」
キークの言葉を合図に三人は小屋へとはいることにした。
「お前にそんな知恵があるとはな!」
コーライがにやりと笑う。
「はっ!まぁ三人寄れば文殊の知恵っていうじゃねぇか!」
キークも軽やかに返す。
「・・・何か二人とも当てにならないような・・・。」
サラのつぶやきを最後に丸太小屋の戸は静かに閉められた。
それから十年と立たぬうちに、ユーカ村は孤児を育てる村として大いに発展したのだった。
その村ではいつも、夕 暮れに咲く真っ赤な華が咲いている。夕華村。夕暮れ時は赤い華が見守る村。昔々の移住者が人々を見 守るようなその強い色を見てこの村をそう名付けたのだ。その名に恥じることなく、何時までも村からは強く明る い笑い声が響いている。
レイとコオウとシュリ
キークとサラが旅立ってから数日。肩の傷もすっかり癒えたコオウは広間へと歩ていた。
サラは自分の行くべき道 を見つけた。
自分はどうするべきか。
コオウは悩んでいた。そんな中、レイがセイヤやシュリ、リョクや自分、そ してレシュ達を大広間へと呼んだのだ。
ここ数日、レイも何かを悩むようだった。
それが解決したのかもしれない と思った。
大広間の扉を押し開けるとそこにはすでに皆がそろっていた。そこにキークやサラの姿がないことにコオウは少し ばかり胸が痛んだ。
「私は、決断しました。」
そう言ってレイは始めた。
「シンシュリーを復興します。移民や思想の違い、身分が低く苦労するものなどを広く受け入れる国とします。 ちょうど隣のクーリア国が内乱の最中です。逃げてくる難民を保護します。そして、レシュも、そこに住むことの できる国にします。」
そう言ってセイヤに笑う。コオウもその微笑みにつられて笑った。レイならば素晴らしい統治者になるだろう。圧 政が無く、自由な国民が住める、心地よい国を作るだろう。
そしてレイはシュリを見つめる。シュリはうっすらと 頬を染めた。
「そして・・・セイヤ様が私にくださると言った、シュリを、妃とします。」
広間に集まった者達から盛大な喝采が起こる。レイはシュリの側により、うれしさのあまり声も出ないシュリの前 に跪く。
「私、レイ・ユーナ・セイラ・シンシュリーはレシュの里の星見、シュリに結婚を申し込む。」
そう言って切ないまでの瞳でシュリを見上げた。シュリは嬉し涙で声も出ない。
「シュリっ!ほらっ返事は!?」
リョクがまくし立てる。まわりのレシュ達も一斉に声を上げる。セイヤはシュリを優しく撫でた。
「シュリ、レイに返事をしてあげなさい。」
セイヤの優しい言葉にシュリはこくりと頷いた。
「って誰が見ても答えは分かるけどなっ!」
リョクの声に周囲のレシュがどっと笑う。
「リョク!茶々を入れないの!」
コオウが窘めると広間はしんとした。厳かに、シュリは言葉を紡ぐ。
「私、レシュの里の星見、シュリは、シンシュリー国、新国王、レイ・ユーナ・セイラ・シンシュリーの妃となる ことを誓います・・・!!」
そう言って立ち上がったレイの胸にシュリは飛び込む。広間に歓声が響く。誰もがこの、十二年越しの愛を祝福し た。
レイは愛おしげにシュリを抱きしめ涙に震えるその金の髪を優しく撫でた。
「そしてもう一つ!」
レイの声に広間が再び静まる。泣きやんだシュリはレイの横に立っている。
「シュリには子供は産ませない。私は絶対にシュリを殺さない。」
静まりかえった広間が、なおいっそう静けさを増す。
「では、レイ。跡継ぎはどうする?」
リョクとセイヤの真剣なまなざしをレイは微笑で受け止めた。
「それは今から作ります。」
広間に疑問符が散らばりざわめきが起こる。
レイはコオウをピタリと見つめ、側に呼ぶ。
コオウはいぶかしがりな がらレイとシュリの前へとたった。
そこでレイが口にしたのは予想もしない言葉だった。
「もし、あなたさえよければ・・・私とシュリの・・・養子・・・つまり息子になってくれませんか?」
広間の時が凍り付いた。誰もが予想だにしなかった事だった。
「ぼ、僕?!だ、だって僕はサーム国の王子だったんだよ?!」
コオウは狼狽する。だが頭の中で、答えが出来上がっていく。どこへも行く当てのない自分に与えられる最高の居 場所。
「“元”王子です。ヒビキと名を変えれば分かりませんよ。みんなが知っているのは二年前の、子供のコオウです。 ・・・ダメですか?」
コオウは泣き笑いで懸命に首を振り、レイに抱きついた。
「良いの?!僕なんかが息子で・・・僕は・・・こんなに幸せになって良いの?!」
「もちろん。あなた以上の息子なんていませんよ。若い父親ですが、父と言うより、今まで通り友でいましょう。 」
コオウとレイが微笑み合うと広間が先ほどと比べものにならないほどに沸いた。
「いよっ!八歳の時に生ませた息子っ!」
リョクが茶々を入れれば広場全体が沸きに沸いた。
「何とでも言いなさい!私は今凄く幸せなんです!!」
広間中央のレイ、シュリ、コオウは本当に幸せそうに笑っていた。
光歴2868年シンシュリー国復興。初代王としてレイ・ユーナ・セイラ・シンシュリーが立つ。妃はレシュ、 シュリ。王子はヒビキ。諸外国の難民、移民を広く受け入れ広大で肥沃な土地で保護し、農耕を主として成り立 つ。自由と平和を重んじ、人種や種族の差別はない。そこにはレシュも何人か移り住み、多くの恵みをもたらし た。邪神という信仰はいつの間にか消え、かつてのシンシュリー国と同様、敬うべき存在へと変わっていった。神 の守りし里、神守里国。レシュある限り、この国は栄え、繁栄していく。自由なこの国は、長い ことその地にて繁栄を続けるのであった。
これで彼等の物語はおしまいです。
最後まで読んでくださった方々に感謝します。




