真っ赤なフィリーの咲く丘で
コオンの都を一望できるフツユ山に三人はたどり着いた。
都の状態を見ずに戦いを挑むのは無茶だというレイの意 見に三人が同意したのだ。
見下ろすコオンは三人が去ったときとあまり変わっていないようで、コオウは安堵のた め息を吐いた。
「さて・・・と・・・」
レイがゆっくりと都を見渡す。
「あの黒い奴1号が死んだせいか?城の中心以外は黒さがないぜ。きっと“まともな”兵士達だろうなぁ・・・。」
「1号って・・・何か言い方が酷いわよそれ・・・。」
のんきな口調のキークに、これまた場違いな突っ込みをサラが発する。
「黒さん2号は王宮の中心にいるの?・・・だとしたらあの兵士達を突破しなくちゃいないね・・・。」
「コオウ・・・黒さん2号は止めなさい・・・やる気がなくなってきますから・・・。突破と言っても彼らを殺す わけにはいきませんし・・・何か良い方法は思いつきませんか?」
キークの軽口に便乗したコオウを軽く窘め、レイはサラに意見を求める。だがサラも数秒唸ったあとお手上げだと 言わんばかりに肩をすくめた。
「っていうか、お前がまた“通り抜け”するか“飛べ”ば良いんじゃねぇの?・・・あ〜・・・でもそれじゃ力の消費が 激しいかぁ・・・。」
キークは自分の考えた事を即座に否定し、前髪をくしゃりと掻き上げ天を仰ぐ。
「ねぇ!!」
コオウがぽくりと手を打ち、馬上の三人を招き寄せこそこそと内緒話でもするように自分の考えた策を話した。コ オウの話を聞いた三人は一様ににやりと笑う。
「面白そうじゃねぇか。」
「でもそれって結構大きな仕掛けがいるんじゃない?」
「それは能力者の私とキークが請け負えばいいことです。・・・しかし、コオウ。それではもう二度と、あなたは コオンに戻れなくなってしまうのでは?」
レイの言葉にキークとサラははっとし、コオウは困ったような笑顔を浮かべる。
「ねぇ、みんな。僕はね、旅の間中ずっと考えていたんだ。」
そう言ってコオウは話を始めた。
「あのね、最初は僕の大切な人々を殺した彼らがただ憎くて、ただ国に戻りたいって思ってた。・・・だけど、そ れじゃだけじゃダメなんだって思うんだ。確かに彼らは憎いし、許せないし、国にも戻りたい。でも、みんなと出 会って、いろんな人たちの話を聞いて、少しずついろんな事を知って、沢山のことを感じて、考え方が変わったと 思う。・・・彼らにも正義があって、それは決して頭から否定できる事じゃなくて、彼らの立場に立てば当然とも 言える想いに基づいてることで・・・少しは、彼らを理解できると思うんだ。でもね、彼らは放っておけば世界中 を滅ぼしちゃう。だから相対さなくちゃいけないって思うよ。でも、その過程でより多くの人たちを守って助けた い。だから誰にも無茶をさせたくないし助けられる人たちは出来るだけ助けたい。出来るだけ理解したい。それを しないでただ闇雲に彼らを滅ぼすなら、僕らだって彼らと同じになってしまうと思う。それにね!きっと正気に戻 れば叔父上は立派な国王になると思うんだ。たぶん・・・僕が知ってる叔父上はノーア達が支配していた叔父上だ から・・・。だからノーアを倒せばコオンは大丈夫だと思う。だからもう、僕はコオンに戻らなくても良いと思っ ているんだ。」
コオウはここで一度言葉を切り、三人を見渡しにっこりと笑っていった。
「ね!この場合、僕が言った策が最良でしょ?だから、それでやろうよ!!」
三人は破顔し、優しく笑う。
「お前、一人前な口をきくようになったな!」
「キークより大人だったりして!」
「では、コオウの策でいきましょう!」
自分の話したことが仲間に伝わり、理解してもらえたことにコオウは嬉しく、晴れやかな笑顔でそれに応じた。
コオンの王宮は高い城壁に囲まれた要塞である。ただ一つの大門には多くの兵士が詰めており、見張りの兵も多 い。その中にはコオウが王宮で王子として過ごしていた時に顔を合わせたことのある兵士もいるはずだった。コオ ウ付きの騎士であったカイやスーシャは兵士の中でも慕われており、よく他の兵士が彼らを訪れコオウとも顔を合 わせたこともあるはずだ。それがコオウの策の要である。
コオウ達は遠目から見知った兵士がいること確認した上 で計画を実行に移した。
「なぁ、何か霞が出てないか?」
城壁の兵士が目をこすりながら隣の兵士に問う。
「よかった、お前も霞が見えるのか?俺の目が変な訳じゃねぇよなぁ。」
それは城門の前で隊列を組む兵士達も同じで、今や彼らの眼前には濃霧が出来ていた。さっきまで出ていた太陽 は、いつの間にか雲間に隠れあたりは昼間だというのに薄暗く、濃霧によって怪しげな雰囲気が漂っていた。
兵達 の間に動揺が走る。
彼らはもう、ドゥーキによって支配されていた人駒ではなく意志を持った人間なのだ。恐怖の 感情が軍の中に伝染していく。
その時だ。濃霧の中にうっすらと馬に乗った人影が現れた。深々とフードを被り人 相が分からない。
「門を開けよ!!」
その人物の声は空気をびりびりと振るわせ軍に響いた。
人間が出せる大きさの声ではない。明らかに何か力のある ものの声だった。だがサーム軍もここで引くような軍ではない。隊長格の男が進み出る。その顔に見覚えがあり、 コオウはほっとした。
「何者だ!名を名乗らぬならこの場で射殺されても文句は言えんぞ!!」
「我が名はコオウ。コオウ・シューメイ・モク・サームだ!」
この名に兵士達は一斉にどよめく。死んだはずだ、とか偽物だ、とかと言うような声が次々に上がる。
「我らが王子は二年前、不届き者どもに殺された!死体も公開されたのだ!!偽物め!!」
「さよう、私は二年前に殺された。だが新王リューイが操られ、それに気が付かぬ国民を見かね、戻ってきた亡霊 だ。なぜに太陽が顔を隠した?この声が、この霧が、生者に出来ることと思うのか!!門を開けよ!私自らこの国 に巣くう魔を払いに来たのだ!!」
今や軍はしんと静まりかえっている。元々サーム国が信仰厚い国で、魂や霊の存在を肯定している国と言うことも あるが、今や半数の兵がこの馬にまたがった人影が王子の霊ではないかと信じかけている。
「私は亡霊など信じぬ!弓矢隊!射ろ!!」
隊長に声に城壁の上にいた弓矢隊が弓弦をならす。大量の矢がその人に向かって飛来する。
「愚か者!亡霊に矢が効くと思うのか!」
コオウの声で強い光が弾け、矢は粉々にはじけ飛んだ。 奇跡のようなその光景に兵士達は尻込みする。
「顔を見せろ!私は王子の顔を知っている!」
隊長格の男は震える声で最後の気力を振り絞った。そして無言でフードを取ったコオウの顔を見てがっくりとうな だれた。確かに自分の知ったコオウの顔だった。あれから二年たったはずなのに王子の顔は二年前と変わりない。 隊長格の男は、コオウの亡霊を肯定したのだ。
「道を開けよ!!」
コオウの声に軍が門に向かって割れていく。
「皆のもの!光が弾けるとき、私が魔を払った合図となる!そうなれば王、リューイは道を違うこと無いだろう! 心して仕えろ!」
それだけ言うとひずみの音もなくコオウと三つの人影が城門までをすり抜けた。彼らが通り過ぎたあとには濃霧も 暗がりも無く、気が付けば太陽も顔を出している。さっきのことが白昼夢のように思える。兵士達は自分たちの見 たものが信じられず唖然とするより他はなかった。
一方上手く城門を抜けたコオウ、キーク、レイ、サラは王宮の中に飛び込んでいた。
「キーク、レイ、ありがとう!おかげでばれなかったよ!」
そう言うコオウの顔は王宮にいた頃よりも2年分大人びている。霧や光、コオウを若く見せたのはレイとキークの 能力だ。
「でも本当に亡霊って信じたかしら?」
「うん。たぶん平気。サーム人は信心深いから。」
四人はコオウの案内で王宮の最奥を目指していた。途中、ノーアの部下と名乗る黒い気配の者達が次々と襲ってき たが彼らの敵ではない。そもそも能力者ではなかった。ただ黒い気配を持っていると言うだけで疎まれていた 人々。だが彼らを四人はためらうことなく倒した。彼らに決心があるようにキーク達にも決心があった。ここで終 わらせる。ここで最後にする。その思いで一撃の下に敵を蹴散らした。 そしてついに王宮の最奥、王座の間に四人はたどり着いた。
王座にはリューイが一人で座り込み、あたりには黒い 気配はない。
「・・コ・・・・オウ・・・」
「叔父上!!!」
王座に座るリューイは虚空を見つめコオウの名を呼ぶ。四人は急いでリューイに近寄った。リューイまであと数歩 というところでリューイがカッと目を見開く。
「!!」
その一瞬でリューイの瞳が他人のものとなる。
「「「「!!!」」」」
四人は同時に飛び退るが時はすでに遅く、四人とリューイは王座の間から消え失せた。
辺り一面が血のように真っ赤な場所に四人とリューイは立っていた。そこは甘い香りが立ちこめる、あの、二年 前、カイとスーシャの命が絶たれたあの、東の平原だった。
「罠だ・・・」
レイが呟く。まわりは結界が張られ、レイは自然達の力を借りることは出来ない。
「その通り。レイ王子、お前は使い物にならなくなった。」
いつの間にかリューイの背後にノーアが立っており、握った短剣をリューイの頸動脈にぴたりと当てている。
「叔父上に手を出すな!!」
コオウが声を張り上げる。
「武器を捨てろ。コオウ王子。腰の短剣だ。そう、二本とも。動くな!ユーカの生き残り!少しでも紋証を描く気 配があったらこいつの喉を切るからな!」
後ろ手に紋証を掻こうと身じろぎしたキークが固まる。リューイは自分にとっては血のつながりも何もないただの おじさんだが、コオウの肉親だ。コオウの悲しむ顔は見たくなかった。コオウは腰に差していた二本の剣を地に置 いた。
「良い子だ。さぁ、ここへ来い。お前にこの叔父、そして仲間を殺させてやる。自らの手で仲間の命を奪ったあと でお前も殺してやる。おっと、動くなよ、砂の民。お前が何かを投じればコオウとリューイが盾となるぞ。」
腰の短刀に手をかけたサラが凍り付く。
「外道!!」
サラが血を吐くような叫びを上げる。心の負担をまたしてもこの少年におわせ、挙げ句殺すなどサラには許せない 所行だ。だが今自分たちは動けない。リューイとコオウいう人質を取られ、自分の得意な飛び道具でノーアを撃つ 事も出来ない。
コオウはノーアの方へと歩む。堂々と。顔を上げ歩く。その姿にレイとキーク、サラはコオウが何をするのか、少 し分かった。だが止めることなど出来ない。出来るのは、コオウの手助け。そしてコオウを殺さないこと。
自分た ちが生き残ること。ノーアのみを殺すこと。
真っ赤なフィリーの中をコオウは一歩ずつ進む。足下でかさりと揺れる赤い花は自分を引き留めようとしているよ うだと、そんなことをコオウは思い薄く笑う。
死ぬつもりなど毛頭無い。自分が叔父とノーアを少しでも引き離 し、少しの隙をノーアに作れば、あとは仲間達が仕留めてくれるはずだ。
「ふふふ、良い子だ。」
ノーアは気味悪く笑いながらコオウに呪をかける。コオウの視界が黒くにじみ、頭には霞がかかったような状態に なる。
二年前、カイを殺したときと同じようだな、とコオウはかすむ視界の中で考えた。
レイとキークは忌々しげ に舌打ちし、コオウの緑色の気配が徐々に黒ずむところを息をのんで見守った。
(ダメだっ!まだだっ!!)
コオウは必死に心の中で抵抗する。ノーアは満足げに手にしていた短剣をコオウへと渡す。
「これでこの叔父、仲間を殺せ、コオウ王子。」
自分の意志とは反対に体はノーアに操られる。自分の右手はノーアから短剣を受け取り、リューイへと向ける。そ して、ノーアはリューイを正気に戻した。
「コオウ!!」
正気に戻ったリューイは目の前に迫るコオウの短剣を見て悲鳴を上げる。あくまで意識のある状態でコオウに リューイを殺させようということだ。ノーアが勝ち誇ったような表情になったその時。
「負けるかぁっ!!!」
コオウは体中から絞り出すように声を張り上げた。そして短剣を自らの肩に突き刺す。痛みで朦朧とした意識は回 復し、振り向きざまにノーアに向かってその短剣を投じた。
「何!!馬鹿め!そんな攻撃が当たるか!!」
至近距離であったにもかかわらず、ノーアは易々とコオウの投じた短剣を避けるが、もとよりコオウには当てる気 などさらさら無い。そして、コオウは、自らが成そうとしたことを成し遂げたのだ。すなわち、ノーアとリューイ を引き離し、ノーアに隙を作ること。
「今だぁっ!!」
肩を押さえ地に伏せたコオウの叫びに三人が動く。
サラは扱い慣れた短刀をノーアに向かって目にもとまらぬ速さ で投じる。
「お願い!!」
サラの動きと共にキークが札で宙を切る。小さな炎が飛来する短剣に重なる。
「頼む!!」
サラとキークの動きと共にレイが早口で唱える。
「Ohonu oy!!」
キークの炎はレイの言葉で大きく燃え、サラの投じた速度のままノーアの胸へと突き刺さる。
「ぐっ!!!」
ノーアの口から呪が出る前に仕留めねばならない。
「弾けろっ!!!」
「Iek!Oson etik ow ayikutukes!!」
キークとレイの言葉を受け炎は光を伴い大爆発を起こした。三人が、コートセイムで編み出した技が、ここで役に 立ったのだ。
光と炎は何時までも続くかと思うほどに大きかった。だがノーアにも奪われた者達への決意があっ た。
「私の最後のあがき、命と引き替えのこの力!!受け取るが良いっ!!!」
炎と光の中から唐突にノーアの声が響き、続いて黒い力が爆発した。
今までに感じたこともないような圧力、力 が彼らに迫る。
ドゥーキや自分と同じような黒い気配の仲間達、それらを奪った者達に対する、ノーアの最後の力 の爆発。
その大きさにキーク、サラ、コオウそしてリューイはもはやこれまでかと思った。
ノーアの結界が崩壊す る。このままでは自分たちはおろか、サーム国全体が焦土となってしまう。足下の赤いフィリーが黒くにじみ巻き 上げられる。
レイが一人、みんなの前に立ちふさがる。
背中越しの仲間達に冷静な声で言う。
「私が止めます。皆さん。力を貸してくださいね。私だけでは、たぶん足りないから。」
レイが自分だけではなく、人の気配に頼った。
コオウ達はなぜかそれがとても嬉しく、三人とも爆風にかき消され ないように大声を張り上げた。
どんな逆境にあっても支え合ってきた明るい声。
「もちろん!」
「おう!存分に使え!!」
「ええ!頼むわ!」
そんな仲間にレイは微笑み、そして表情を引き締める。剣を抜き、眼前にかざす。
「Awatsi on uturig!!Iam okos oson itakar ow isemusotik!!Akiohu aseroy!!!」
とたん、レイの蒼い気配が爆発し彼らを包む。能力者でないサラやリューイにもその蒼は見えた。蒼い気配は黒い 気配を包み込み押さえつける。黒い気配は更に勢いを増した。だがレイから噴出する蒼い輝きは尽きない。キーク 達は状況も忘れ、レイの気配を綺麗だと、見入った。そして黒い気配の勢いは衰えていく。レイの気配が徐々に薄 くなっていく。
「僕の気配!!もしもそれが使えるなら!!レイに力を貸して!!!」
レイの蒼い気配に緑が混じる。コオウは体から力が抜けていく感覚を感じ、これが気配を使うことかと思った。
「私の気配も!使えるなら!レイに手助けを!!」
サラの叫びで蒼と緑に鮮やかな黄色が混ざる。
「俺は村一気配が強かったんだぜ!存分に使え!!」
キークは自らの意志で気配をレイの元へと飛ばす。蒼と緑、黄色と赤が混じり、黒を押さえ込み爆発した。
その色 合いは、城壁の兵士、街の人々、ターシャ砂漠の砂の民にも見えた。蒼と緑、黄色と赤の強き光が彼らを優しく包 み込んだ。
そしてその光は、しばらくの間輝き続け、優しく淡く消えていった。
真っ赤なフィリーの咲き誇る平原。
キーク、コオウ、サラ、リューイは光が収まるのをじっと見ていた。やがて 光は消え失せ、最後に残った蒼だけがレイのまわりにとどまり、消えた。
キークだけはとどまり続けるレイ本来 の蒼い気配を見ていた。
そしてレイは振り向き優しく微笑む。
その顔は少し、照れくさそうだった。
「終わりましたね。みんなの気配のおかげです!」
「あぁ、終わったな。」
そう言ってキークはレイに歩み寄る。
「うん。終わったね。」
コオウも痛む肩をかばいながらレイの元へと歩いていく。
「そうね、これで終りね。」
サラもノーアに向けて放った短刀を拾いレイの所へ行く。リューイは一人取り残された。
「コオウ・・・。」
リューイはコオウ達の方へ手を伸ばす。コオウは唇を噛みしめ叔父に告げる。
「叔父上。僕は過去の亡霊です。」
「行ってしまうのか、コオウ・・・。兄上達もこの世を去り、お前までも・・・!私は・・・私はこれからどうす ればいいのだ?!」
追いすがろうとする叔父をコオウは片手をあげて制する。
「叔父上・・・これから、サームを良き国へと導いてください・・・。それが、僕の最後の・・・最大の・・・望 みです。どうか、どうか平和な、理解ある国を築いてください。」
立ちつくし、薄く笑い軽く頷くリューイにコオウは明るく微笑む。これが彼の、彼にとっての祖国への別れ。
「Uyrui ot anudek arerat omon.Ouuykueh ot omoder・・・。」
レイの言葉でリューイは平原から姿を消した。
「コオウ・・・リューイは王宮へと送りました。」
レイの声にコオウは振り向き笑う。大粒の涙が彼の頬を伝う。
「ありがとう、レイ。ははは・・・おかしいね。とっくに覚悟してたのにな・・・。絶対泣かない、笑顔で去るっ て決めてたのにな・・・。僕は・・・」
ぽろぽろと涙を落としながらコオウは笑う。
「コオウ。お前、ちゃんと笑えてたよ。叔父貴の前で、ちゃんと笑えてたぜ。」
肉親と決別する辛さを知っているサラはただ優しくコオウの髪を撫でた。結界にはじかれていた彼らの愛馬がいつ の間にか近くに来ていて、フーユはコオウに鼻面をこすりつける。
「ははは、そうだね。何時までもくよくよしてられないね。」
そういってコオウは袖口で顔をこする。そして晴れやかに仲間に笑った。
「ひとまず、コートセイムに戻りましょう!もう気配を押さえる必要は無いのでここから飛びます。でも四人一緒 は辛いので一人づつ飛ばします。向こうで待っててくださいね。まずはサラ。」
レイが微笑み仲間に言った。
「終わったわね。これで私の民は侵略されないですむわ。みんな、ありがとう!じゃぁあとで!」
そう言ってサラと愛馬キラは平原から飛んだ。
「キーク。」
「おう!いやー色々世話になったな!まぁ、これからも頼むわ!んじゃぁあとでな!」
キークと愛馬アーシャもコートセイムへと飛んだ。
「コオウ。」
「レイ、ありがとう。ほんとに、ありがとう。じゃぁ先に行ってるね!」
そうしてコオウと愛馬フーユも飛ぶ。
最後にレイはラクナにまたがり、フィリーの咲き誇る平原に頭を下げる。散っていった者達への黙祷。
「私は、あなた方が間違っていたとは思わない。私に、色々なことを考えさせてくれた。私を強くしてくれた。私 に仲間をくれた。だから・・・死んでしまったあなた達のことを、私は決して忘れない。私はあなた達を殺したこ とを背負って生きる。そしてあなた達のような人を受け入れられる国を作る。それが、私の、あなた達への償いで す。・・・ありがとう。そして・・・さようなら。」
もう一度深々とフィリーに向かって頭を下げたあと、レイとラクナはコートセイムへと飛んだ。
深紅のフィリーは何時までもそこでそよいでいた。
駆けつけたサーム国の兵士達は何事もなかったようなフィリー 達しか見つけることは出来なかった。ただ、彼らの記憶には美しい光が残るのみ。
遠き上世の時代には 光と闇との二神在り
金の瞳を持つ光の神 銀の瞳を持つ闇の神
二神は互いを恐れ合い 二神は互いを求め合う
共の在ろうと一つになり 融けて世界を生み出した
世界に二神は散らばった 散らばり人を生み出した
人の心に神が住み 二神は常に反発し
故に人とは脆く在り 故に人とは強くなる
これは光と闇とが融けて住む世界の物語
後、エピローグで終わりです。




