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真っ赤なフィリーの咲く丘で  作者: 樫木凛
最終章 向かう道は違えども
19/23

動き出した時

緑の森の中心に一人の少年がいた。


すんなりと伸びた手足は適度に引き締まっている。


少年の片手には短刀が握られ、力を抜いたごく自然な体勢で立っていた。


柔らかな布で瞳を覆い薄茶の髪が風になびいている。


ふわりと風が そよいだ瞬間、自然体だった少年の体がしなやかな動作で剣を左になぎ払う。


先ほどまで誰もいなかった空間に一 瞬だけ剣のぶつかる音と銀蒼の髪のレシュが現れ消えた。


少年はまた力を抜き自然体に戻る。戻ったと思った瞬間 に少年は鋭く叫ぶ。


「そこだっ!!」


キィンッ!!


少年の短剣にはじかれて先ほどのレシュが現れ、少年の剣と交わっている自分の剣を見て微笑んだ。


「そこまで。」


その言葉に少年は構えをとき、瞳を覆っていた布を外し、一礼する。


「ありがとうございました!」


顔を上げた少年の瞳は薄緑。


二年前にはまだ子供だった顔はすっと引き締まり、強い意志をたたえた瞳はそのまま に成長したこの少年は二年前のコオウ王子に他ならない。


「気配を読むのがまた上手くなりましたね、コオウ王子。」


ニコリと微笑むレシュの王、セイヤの容姿は二年前から、たぶんそのずっと昔から変わっていない。


強くなりたい というコオウを指導して二年。


コオウはセイヤの予想を超えるまでに成長した。普通の剣術はもとより、能力者でないにもかかわらず気配の変化に敏感なことを見抜いたセイヤが、視覚のない場所での戦闘を教えると瞬く間に自分のものにしていった。


元々の武術の才能ではなく、コオウ自身の努力の結果である。


アザだらけになるまで練習 して、手のまめがつぶれて出血しても短剣を握り続けた。今、彼の手にあるのは、カイから貰った短剣である。


「だって、早く強くならないとみんなの役に立てないですから。」


顔つきや体つきが青年への階段を上っていても、コオウのこの笑顔だけは二年前と全く変わらない。曇ることのない瞳で相手を見つめる無邪気な微笑み。彼の微笑みがまわりの空気を明るくした。






コオウとセイヤのいる森から少し離れた草原を一人の男性が歩いていた。濃蒼の髪は膝裏近くまで伸び、さらさら と風にのり、太陽に透かされ生え際の濃蒼から毛先の蒼まで見事なまでの色合いだった。


男性の眼はオッドアイ。 スカイブルーとシルバー。優しげな目元と対照的に銀の瞳の奥は鋭い光をたたえている。二年前からあまり変わら ぬ容姿をしたこの男性は半分レシュの血を引く、今は無きシンシュリー国の王子レイである。彼の視線の先には一 組の男女が立っていた。


「あぁ、キーク、サラ!ここにいたんですね!」


レイの声に二人は振り返る。


「わりぃ・・・探させちまったか?」


こめかみをぽりぽりと掻きながら苦笑して答えたキークは、二年前よりも少し背が伸び、緩いウェーブの淡い金髪 は二年前同様、首元で小さく結っていた。茶目っ気たっぷりの薄茶の瞳は変わらず、まだ少し幼さを覗かせる青年 となった。


「ごめん!私が火矢の練習に付き合わせちゃったからだわ。今ね、キークが創った火を弓にともして撃つ練習をし てたの。」


褐色の髪を高く結い上げたサラがパチンと両手を合わせる。最近のサラは時折、大人の女性の顔をする。少女のよ うに純粋な笑顔を見せたかと思うと大人びた思案顔をすることもある。落ち着きを増したサラは二年前よりも美し くなった。


「別にかまいません。私もキークとの協力攻撃は出来ないかと尋ねようと思って探していたんです。」


この二年間でキークは紋証術に関する書物を読みあさり、体系化するまでに至った。

そして最近、詠唱無しでも簡単な紋証術なら使える方法を創り出したのだ。それらを見たとき、レイとサラは素早さに反して能力が低いこの紋 証術を何とかして自分たちの力でフォローできないかと考えた。


「とりあえず・・・キークが創った力を私が増幅するのを試してみたいのですが良いでしょうか?」


「良いぜ!」


そう言ってキークは薄い札のようなものを取り出す。表面にはキークがいつも描く紋証が描かれていた。キークの 指に挟まれた札がさっと宙を切るように動くと札の中心から炎が上がり札は炎上する。


キークが即席紋証術と呼ぶ これは、紋証をあらかじめ書いておき、その札の紋証に意識を集中させ力を具現化するものだった。ただし札の大 きさは限られてしまうし、一度使うと紋証は消え、札は役立たず、炎などを創れば今のように燃えてしまう。


「Ohono on esieri oy!Omott ahegisuk oodett!!」


レイの声に応じてキークの手の中の炎は勢いを増した。


「すっげぇ!できんじゃん!!」


「じゃぁそれを私の弓に乗せて!!」


言うが早いかサラは弓弦を引き絞り二十メートルほど離れた的に向かって矢を射た。


「Ohuno oy!Ayizir on esnstn in!!」


「いっけぇ!」


男性二人の声を受けて炎はサラの射た矢の先にともる。ヒュンと風を切って矢は的の中央に突き刺さった。


「Ahizeket!!」


「今だっ!!」


矢が突き刺さった瞬間、またしても二人が叫ぶ。炎は大きく弾け爆発した。矢の刺さっていた的は粉々に散って燃 えて消えた。


「・・・すっげぇ・・・。」


「これは使えますね・・・。」


「っていうかこれでレイの力が解放されれば完璧じゃない?」


三人は顔をあわせ、ふふふと満足げに笑いあった。









「レイの気配が満ちた。」


大広間に呼ばれたキーク、コオウ、サラ、レイは神妙な面持ちでセイヤの言葉を聞いた。


「後は問題の黒い気配が力を使うのを待つのみだ。かの人たちが力を使うのをシュリが感じたら私とリョクがその 場所に送る。シュリの先視の能によるとそう遠くない日に掴めるそうだから気を抜かないように。それと武器の手 入れ、荷物は忘れずに。いつでも発てるようにしておきなさい。」


「「「「はい。」」」」


四人は大きく頷いた。


「それと、我が里から君達に贈り物だ。・・・コオウには短剣を。レシュの短剣だ。君の短剣と共に使いなさい。 」


コオウは短剣を受け取りまじまじと眺める。


いつも使っているカイからもらった短剣よりも少し長く、柄やさやの 模様はレイの持っている剣に似ていた。シュッとさやを払い剣を見ると、綺麗に磨かれた剣に自分の嬉しそうな顔 が写った。コオウは短剣をさやに収め、深々とお辞儀をした。


「ありがとうございます!!」


そんなコオウに優しく微笑みセイヤはサラの前に移動する。


「サラにはレシュの弓と・・・これを。」


弓と共に差し出されたものを見てサラは目を見開く。


何本ものスローナイフ。普通のナイフよりも細身で短いも の。自分の得意とする武器。恭しくそれらを受け取り、自分の手になじむことを確認すると、サラは満面の笑みで お礼を言った。


「キークには・・・」


差し出されたものを見てキークは首を傾げる。


「なんだこりゃ?」


形はペンダントのようで箱のようなものが先に付いていて何かが入っているようだった。


「・・・これ・・・何の役に立つんですかね?」


いぶかしげにペンダントをつまむキークを見てセイヤは微笑む。


「それはすべてが終わったときに、君の故郷で使いなさい。」


「・・・じゃぁ中身は見ないで大事にとっとく。」


そう言ってキークはペンダントを首にかけた。


「さて・・・レイ。・・・あなたにはもう私たちからあげられるものはない。・・・だが・・・すべてが終わった後 に、ひとつ、受け取ってもらいたい。」


「私は、セイヤ様やみんなから、沢山のものをもらっています。返すことが出来ないほどのものを。力を下さった レシュの皆さんに誓って、何を引き替えにしても、彼らを倒します。」


そういって微笑むレイに、よく似た微笑みでセイヤは返す。


「私たちも、君達から沢山のものをもらったよ。」


そこでセイヤは一度口をつぐみ、一瞬押し黙ったあと真剣な顔で続けた。何かがセイヤの先視の能に触れたよう だった。


「・・・レイは終わり次第一度ここに帰って来なさい。いいですね?」


念を押すようなセイヤの口調と表情を見てレイは苦笑する。


「・・・セイヤ様。ここは私の第二の故郷でもあるんですよ?まして第二の父である貴方が帰ってきてくれと言う のであれば、喜んで帰ってきますよ。」


「・・・。レイ。私の言っていることを分かっていてはぐらかすのは止めなさい。精神体だけで帰ってきてもどう しようもないのですよ?」


セイヤの発言に顔をこわばらせたのはキーク、コオウ、サラの三人だ。三人は何を言わんとしてるのかをくみ取り 眉間に皺を寄せた。たぶん今のレイの発言を正しく表記するなら「還ってくる」。つまりレイは自らの命と引き替 える覚悟で戦いに臨もうと言うことだ。


「レイ。くれぐれも、自分の命を軽んじないように。必要なときは周囲の人の気配を使いなさい。自分だけで、自 分の気配だけで、と言う考えは捨てなさい。・・・残される者の痛みは、貴方が一番よく知っているはずです。」


セイヤの言葉に一番驚いたのはレイだった。はにかむような微笑みを浮かべる。


「セイヤ様。心配しないでください。私はもう12の少年ではありません。あのころより少しは心が強くなったと 思っていますし・・・。・・・なにより、」


レイはここで一度言葉を切り、キーク、コオウ、サラを見て、とても綺麗に微笑んだ。


「大事な、心強い仲間がいますから!」









そのころコオンの人々は不安に包まれていた。新王リューイが即位してから1年は何事もなかった。兵役は強化さ れたものの、税は減り、生活が潤った。異変が現れたのはそれから三ヶ月後。最初は些細なことだった。国王は国 内の税を減らした変わりに、他国、他民族からより多くの税を搾取していた。そのことに関し、砂の民が北の国境 付近の税を減らせと持ちかけてきたのだ。国王はこれを拒否し、砂漠の民はあくまでも主張を通そうとした。 そしてリューイは軍を動かした。わずか1年とはいえ強化された兵の働きはめざましく、砂の海をもおそれずに進 んだ。だがそこは砂漠の民に地の利があった。もともと武力での解決には多勢に無勢と知っていた砂の民は巧妙に 彼らから逃げ隠れた。結局国王軍は、戦をせずに国に帰ったのだ。

高ぶるだけ高ぶらせた衝動を発散できず舞い 戻った兵士達は街の中で暴れ出した。これをまずいと思った国王(正確には背後にいるドゥーキとノーアだが)が 領土拡大に向けて動き出した。手始めにホートカイキ自治領。

ここは商人の街だけあって四ヶ月の駆け引きと戦闘 でかたが付いた。サーム国ホートカイキ州と名付けられ、商品には重い税金がかけられた。

そして季節は即位から 二度目の秋、国王は砂の海を領土に加えることを公布した。神出鬼没の砂の民の撲滅のため男子は12歳以上、女 子でも剣術に長けたものは14歳で、兵士として徴収された。 徴収された兵士達がひしめく城門前。おびえた顔、興奮し紅潮した顔、妙に落ち着いている顔、人々の表情は様々 だ。

そして現れた国王に人々は息をのんだ。 前王が存命だったとき、その気性の荒さを謳われた弟王リューイ。武人らしいがっしりとした体格と強い意志と光 が宿った瞳。

前王が亡くなる3年前ぐらいからその瞳は曇り、かげりがあったものの、即位式では威厳と強靱さが あり、これからこの国を託せると信じた王が、兵士達の目の前に現れたはずだった。

だが、彼らの目の前に立つその人は、彼らの、彼らが信じた、王の姿ではなかった。 瞳はうつろで、すっと伸びていた背は少し猫背になり、王の背後に立つ二人の黒服の男達にもたれているかのようだっ た。

広場にざわめきが広がる。その様子を眺めていたドゥーキとノーアは苦笑する。二人にとって民衆の反応は予 想していたものであり、むしろようやく気が付いたかという思いもあった。

本当に能力のあるものは二人が王を支 配していることに気が付くはずだ。だが誰一人として操られているなどとは思わず、民衆は良い王だといい、学の あるものは愚王だと言っていた。気配にさといはずの呪術者達は一番最初に支配下に置いた。

彼らの力はユーカ村 の村民には遠く及ばず、簡単だった。こんな傀儡でも民衆に効果はあるのではと思ったが、無いどころか逆効果 だったらしい。 苦笑してドゥーキが一歩進み出た。

民衆は一歩退く。気配にさとくなくても分かるほどにドゥーキの気配は強かった。


「サーム国の民よ!!」


広場に響き渡る声だった。


「よく聞け!!」


広場が、しん、と静まりかえる。誰もが物音を立てず、誰もがドゥーキの一言一句に耳をそばだてている。広場に いる人間が、すべてドゥーキに集中した。これがドゥーキの待っていた瞬間。彼の気配を押さえていたものが吹き 飛んだ。

月のない夜のように真っ黒な気配が爆発し、国を覆い尽くす。人々から意志と思考を奪う、邪悪な気配。 ノーアの声が響いた。


「我が手に下れ!!サームの民衆!!」


黒き気配は世を包む。遠くの国で鳥が囀りを止め、馬が暴れる。暗雲が広がり、川が溢れる。


そして、四人の最終決戦が幕を開けた。

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