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真っ赤なフィリーの咲く丘で  作者: 樫木凛
過去と決意と
14/23

星の夢みし光の都

ふわりと風が薫る森の中に五人と馬三頭は立っていた。


木漏れ日は薄緑のカーテンとなって大地に降り注ぎ、大地 はしっとりと潤い生命を育んでいる。


「Atadiam.」


レイの声がするとザァっと木々がそよぎ、風が舞う。足下の大地に花が咲き、鳥たちが一斉に集まってきた。


「うっわ・・・どこだよここ・・・。」


キークが周囲を見渡した。自分たちは森の中の祭壇らしきところに立っていた。祭壇と言っても円形の石で円を描 いただけの簡単な物だが。


「コートセイムに飛ぶってさっき言ってなかったけ?」


サラの民の伝承の中でコートセイムは常に闇が降りた暗黒の国ということになっていた。


「きれいな森・・・。」


コオウも思わず言葉をなくす。


「我らがコートセイムへようこそ!」


リョクが誇らしげに述べ、被っていたローブを脱いだ。


「「「!!」」」


三人は息をのむ。ローブの下から表れたのは、先が少し尖った耳と金の瞳を持つモ ノ。これがレシュなのかと三人は瞬時に理解した。フードを取ったリョクは淡い金髪を薄緑で染めたような髪を長 く伸ばし、獣のような金の瞳はきらきらと輝いていた。だが、色白で整った顔立ちは人間とさして変わらない。そ してフードを取った瞬間から、気配が輝いた。大きさは人と変わらないが輝き方が違う。人の気配が湖面のように 光るならば、リョクの気配は星のように輝いていた。何かの光を受けて輝くのではなく、自分自身が光を発してい るかのようだった。


「Arukan.Aays ot Uhuy ow uteret okok ow ananiihsetaeget.」  


レイの言葉を受けてラクナは二頭と共に森の奥へと去っていった。ぼーぜんと自分を見つめる三人にリョクはにこ りと笑いかけた。その笑顔があまりにも人なつこく、輝いていたので三人は頬を赤く染め、決まり悪く視線をそら した。


「俺の美しさに見とれているところ悪いんだが、城まで一緒に来てくれないかな?」


よくもまぁ真顔でそんなことをと三人は思ったが、事実だったので何も言えなかった。代わりにレイが言う。


「別にリョクに見とれていたわけではなくレシュが珍しかっただけだと思いますよ。」


「・・・。・・・どうでも良いけどね。そんなことより早く城に戻らないとセイヤ様が待ちくたびれてここまで来 るぞ?」


「あぁそうですね。行きましょう。」


最後の一言は先ほどから固まりっぱなしの三人に向けられた。


「え・・・ち・ちょっと?!行くってどっちに?」


サラが問いかける。自分たちが立っているところ以外はすべて木々が生い茂っている。


「こっち。」


リョクが指さした所から木々がそっと撓み、一筋の道を作った。


「貴女が砂漠で迷わないのと同じように私たちはここで迷うことはないんです。」


レイがにこりと微笑んでリョクについて行ったので三人も慌てて後を追った。







さわさわと揺れる木々が作る小道を五人は一列になって歩いた 途中には澄んだ小川が流れていて きれいな透かさわと揺れる木々が作る小道を五人は一列になって歩いた。途中には澄んだ小川が流れていて、きれいな透か し彫りが施された橋が架かっている。さらさらと流れる小川に魚たちが集い、跳ね上がって五人を迎える。水を飲 みに来ていた鹿や馬たちも挨拶をするように嬉しそうな鳴き声を上げる。


「Atadiam.Iam ah esiay asam on otokor in iosiedurnad.aoted aiinukuroy.」


レイがそう言うとウサギやリスは喜んで飛び上がった。


「焼き菓子でも持って行ってやれよ。」


リョクの言葉で蚊帳の外な三人は、どうやらレイは後でこの動物たちに会いに来るつもりなんだな、と理解した。


十分程度歩くと視界が急に開けた。広い平原が広がり、遠くには山脈が広がっている。


ほぅとキーク、コオウ、サ ラの三人はため息をついた。ここがコートセイムの中心なのだ。地図に描かれるコートセイムと何ら変わりはな い。円形の土地で一番外側が山脈、その内側に森、そして花が咲き誇る平原。その中心に城があった。城壁も掘り もなく風景と解け合うように自然でひっそりと佇んでいる。サームのような堅牢な作りとはほど遠く、華奢な印象 だがその大きさはサームの何倍もある。蔦が絡んでいるがその蔦ですら薄緑に輝いていた。


「あれがお城なんですか?街がないみたいですけどレシュの方は皆さんあそこに住んでいるのですか?」


物怖じしないコオウがリョクに聞く。


「おおかたのレシュはセイヤ様の城に住んでるが、山脈に住む者も森の中に住む者もいるよ。」


コートセイム初訪問の三人はへぇと感心する。そんな話をしていると前方から黄金が迫ってきた。少なくともキー クにはそう見えた。コオウとサラの目には一頭の馬が猛然と駆けてくるように見えた。


「おうおう、早速出てきたなぁ・・・。」


リョクは呆れと喜びが半々な声を上げた。馬はどんどんこちらに近づいてくる。馬には女性が乗っていた。黄金の 髪を風になびかせ猛然と、だが優雅に馬を走らせてくる。気配の色は金。大きく太陽のように輝くそれが見える キークには、黄金が駆けてくるように見えたのだ。一行の目の前までくると女性はふわりと音もなく馬から飛び降 り一目散にレイに向かって駆けてくる。


「レイー!」


速度をゆるめず飛び込んできた女性を危なげなく抱きとめると、レイは少しとまどうよな微笑みと共に言った。


「ただいま。」


再会を喜び会う二人の横でリョクは穏やかに苦笑した。


「お二人さん。公衆の面前で何をいちゃついてるんですか・・・三人が固まってるよ。」


別にいちゃついてないですよ、と言うレイは真顔で言う。そうよ、と女性は同意したところで三人の存在が初めて 目に入ったようだ。慌ててレイから離れぺこりと頭を下げた。


「コートセイムへようこそ!私はシュリと言います。」


にこりと笑った表情は女性と言うよりは少女の面影が強い。緩くウエーブがかかった金髪がふんわりと、色白で染 み一つ無い肌をを引き立てる。ほんのりと色づいた頬が美しい顔立ちを少し幼く見せていた。


「キークです。」


「コオウです。」


「サラです。」


三人は数秒見ほれた後何とかそれだけを言った。


「よろしくね!紋証術の継承者キークにサーム国王子のコオウ、それに砂漠の民の元長サラ!」


「「「何で知ってるの?!」」」


三人の声が見事にかぶった。シュリはレイに似た柔らかい微笑みを浮かべる。


「私は星読みなの。だからずっとあなた達を見ていたわ。さぁ、こんな所に何時までもいないで、城に案内するわ!」


そう言うとシュリは体重を感じないような軽やかな仕草で馬に乗りそのままてくてくと歩いていく。四人は慌てて 後を追った。


「きれいな人・・・じゃなかったレシュだね・・・。」


「年はいくつなの?私と同い年ぐらい?肌きれい・・・。」


「・・・お前の彼女?」


仲間達の矢継ぎ早な質問にレイは律儀に答える。


「えぇ。彼女は間違いなくレシュですよ。年は人間風で言うならば今度の冬で二十歳。私と同い年です。・・・彼女と私の関係は私も上手く定義できません・・・。」


「「ごまかすなよ!」」


今度はキークとリョクがかぶる。


「お?紋証少年もそう思うか?」


紋証少年と呼ばれ、キークは少しだけむっとした顔になる。


「・・・俺にはキークって名前があるんだけど。」


「おぉそうか紋証少年!」


「大体俺はもう十八だ!少年少年言うな!」


「ははは、俺から見れば少年だ。それにな、少年。若いって言うのは良いことだぞ?」


リョクの言葉にレイは露骨に眉をひそめ、キークは吹き出した。


「そうだよな!老けてるよりは若い方が良いな!」


話が本題から大いにそれているが、この二人、意外と気が合うようだ。










城の大きな扉を開けるとそこには光が溢れていた。中央に座る銀蒼の髪を膝裏近くまで伸ばした男性が金の瞳を細めて レイの方へと駆け寄ってくる。レイは深々とお辞儀をした後、男性に微笑んだ。彼らの左右には多くのレシュがい て、彼らも又、レイの帰還を喜んでいるようだった。


「ただいま帰りました。」


男性の方はふわりとレイを抱きしめる。


「お帰り。待っていた。」


一通り感動の再会を果たした後、男性はレイから離れ残りの人間三人に浅く頭を下げた。


「ようこそ、コートセイムへ。私はセイヤ。ここの・・・サーム風に言えば国王、砂の民風に言えば長、ユーカ風 に言えば長老、とにかくそう言う役割をしている。レイが世話になった。ありがとう。心から感謝する。」


左手を胸に当て頭を下げるレシュの感謝をされて三人は、いや、とか、いえそんななどと右往左往の体だった。


「さて、私達レシュはそなた達を客人として迎える。人と比べて質素な生活をする我らだが、出来る限りもてなさ せてもらおう。」


セイヤの言葉で遠巻きに控えていたレシュ達が一斉に四人によってきた。赤い髪、青い髪、金髪、銀髪と様々だ が、みんなそろって金の瞳に長髪で耳が少し尖っていた。


キークはその気配のまぶしさに目を細める。


「・・・まぶしい・・・。」


コオウは大きく目を見張りはにかんだ笑みを浮かべた。サラも同様だ。


「ようこそコートセイムへ!歓迎します!!」


人間が珍しいのかレシュ達は3人に次々と質問を投げかける。いわく、私たちはどう言われていますか?だの、怖 いですか?だのの質問で3人は這々の体で答えた。


”パン!”


未だにぎわうレシュ達がセイヤの手を叩く音で一斉に静まりかえった。


「諸君!そろそろ客人を休ませてあげなさい。彼らはサーム国からはるばる来たのだ。色々と聞きたいこともあろ うが、今はしばし控えよ。」


セイヤの声が広間に響き、レシュ達が名残惜しそうに3人から離れていった。ほっと3人は息を吐き出し苦笑し合 う。はるばる来たと言う言葉がなんだかむず痒い。


「さて。シュリ!」


セイヤが呼ぶと後ろの扉が重々しく開き、衣服を改めたシュリが出てきた。スカイブルーの宝石をあしらった髪留 めが金髪に映え同じく薄いスカイブルーの薄絹のドレスがふわりと彼女を彩っていた。


「見違えるほど綺麗だなぁ・・・」


キークは呆気にとられたような、何とも間抜けな表情でシュリを見ていた。


「さっきからすっごく綺麗だったよ?」


コオウは感嘆のため息と共にシュリに見とれた。


「って言うかキークは服の善し悪しなんか分からないでしょ・・・。どうせ君の基準は気配なのよね・・・。」


サラはさりげなく酷いことを言って、同性としてのうらやましさを持ちつつシュリを見つめた。レイはちゃっかり とシュリをエスコートしに扉に歩み寄っている。


「レイ。」


シュリの口から紡がれる彼の名は、綿菓子のように甘く、銀の鈴のように凜としていて3人は


”あぁ、彼の名はこんなに綺麗な音だったのか”


と妙に感心した。名を呼ばれた本人は照れもせず、右手をごく自然に差し出した。彼女の服装はレイが隣 に立つとより映えるように、彼の瞳の色にしたのだと二人が並ぶと分かった。その手に左手を重ねてゆっくりと歩 く彼女は、先ほどの馬上の人とはうってかわっていた。


「・・・どっちが猫なのかしら・・・」


と失礼なことを抜かしたのは、自分も猫をかぶっていたサラである。二人がセイヤの元まで来るとレイはシュリを セイヤに預け、3人の隣に戻った。


「この子はシュリという。我が里の星読みだ。星読みの力では私すらしのぐこともある。この子をそなた達の世話係として付けたいと思うのだが・・・よろしいか?」


3人はこくこくと大きく頷いた。


「とりあえず各部屋へと案内しよう。ここにいる間は自分の部屋として使ってくれ。何か不足があれば我らに言う といい。・・・シュリ。サラを案内しなさい。リョク。キークを。私がコオウ王子を。レイは・・・好きに過ごし なさい。」


3人には丁寧に、レイには少し適当な言葉を掛け、セイヤ、シュリ、リョクは3人を引き連れて広間を退出した。 残されたレイはレシュ達と軽く話をした後、森の中へ消えていった。もちろん多くの焼き菓子を手に持って。

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