◆キリヤの1日◆
20**年、◯月◯日水曜日。
朝7時起床。藍島キリヤの朝は忙しい。―え~と朝ご飯…賞味期限切れの納豆にご飯、クロワッサン。何故主食が2品あるのかと訊かれれば愚問、クロワッサンの賞味期限がヤバいからである。歯を磨きながら 食器を洗い、布団をベランダに干して軽く掃除をする。ここから徒歩15分の私立 音栄羽学園の制服を纏って家を出た。
「おーす。藍島」 「はよ。」
席に着くと前の席の林 大輝と挨拶を交わし、下校までなんとなく過ごす。
「こんちわー」
そして放課後、学校から600メートル離れた古本屋にバイトに行く。
「おっ、来たか。待ってたよ」と笑顔で店の奥から姿を表した店の主人、田辺荘介さん。80を越えるがまだまだ元気で眼鏡を通した優しい眼差しが孫から好かれる“おじいちゃん”という感じだ。
この古本屋はただ古いという訳ではなく 戦前に出版された有名な本や貴重な原本 なども置いてあるので考古学者やリッチな人達がたまに来る。しかし、荘介さんは本当に相応しい人にしか本を渡さないので売れるのは極稀だ。荘介さん曰わく、《本当に必要としている人にしか売らないのは、本が本来の役目を果たす為》
らしい。その本来の役目というのが何なのかは俺には分からない。
「それじゃあそろそろ閉めようか。」
棚の整理と掃除を終えて荘介さんが言った。
「はい。」
本を片付けて帰り支度をする。
時刻は7時を回っていた。
―「後は俺がやっておきますんで。」電気を消してシャッターを閉めるのは俺の役目だ。
「ありがとう、じゃあお先に」と軽く手を挙げて荘介さんは店の隣にあるアパートに帰っていった。
「ほんじゃ俺も帰るか」
シャッターを閉め終えた時、後ろで声がした。
「しっかし、スゲー綺麗な人だったなぁ…」湯船の中で天井を見ながら呟いた。
―帰り際渡されたあの本…。どんな事書いてあるんだろ。
風呂から上がってキリヤはリュックから預かった本を取り出した。緑色の革の表紙には金色の文字と 鈴蘭が描かれていた。
「これ何語だよ」 ―中身、見てもいいよな?…読めないし。
戸惑いながら本を開いた。
すると
「はじめまして~!!ご主人さま☆」
「えっ…?」
辺りを見渡すが誰も居ない。
「なんだ…空耳「空耳じゃないですよぅ!ココです、ココ。本の中で~す☆」
こうしてキリヤの物語は始まった。